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第207話
お義父さんを一人残すのは心苦しかったのだが
「涼香との思い出に浸りたいんだ。
俺は大丈夫だから、一人にしてくれないか?
瑞季君、また美味いメシ食べさせてくれよ。」
と言われて渋々帰宅した。
「ねぇ、日向…本当にお義父さん、一人にしてよかったの?
せめて今日だけでも僕達一緒のほうがよかったんじゃない?」
「うん。いいんだよ。
親父、きっと一人でヤケ酒飲んで、思いっきり泣きたいんだと思う。
誰かいたらさ、それできないじゃん。
だから…親父が言うように、今度美味いメシ作ってやってよ。」
あぁ…そうなんだ。お義父さん…
何だか切なくてまた泣けてきた。
「瑞季…お前、泣き過ぎて目が溶けそうだな。
こっちにおいで…」
抱きしめられ、暖かな胸に縋り付いて泣いた。
日向は僕の頭をずっと撫で続け、時折キスをしてくれた。
僕にはこの暖かな温もりがすぐ側にある。
抱きしめると抱きしめ返してくれる力強い温もりが。
もし
…もし日向がいなくなったら。
心臓を鷲掴みにされたような痛みが走った。
息ができなくなり、日向に縋り付いていた手に力がこもる。
「瑞季?どうした?」
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