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第208話
身体を震わせ目を見開き、口をぱくぱくと動かす僕の異変に気付いた日向が、僕を揺さぶった。
「瑞季?瑞季っ!しっかりしろっ!」
ぱしんと頬を叩かれて、はっと正気に戻った。
一気に肺に空気が流れ込んできて、けほけほとむせ返る僕の背中を日向が摩ってくれている。
「瑞季?大丈夫か?瑞季?」
何度も深呼吸する僕の顔を覗き込んできた日向の顔を潤んだ目で見つめた。
「…僕の…僕の前から日向がいなくなったら…って思ったら、息ができなくなって…」
「バカだな…お前を一人になんかしないから、安心しな。
唇…紫色になってる。」
ちゅっちゅっ と触れるだけのキスを繰り返す。
冷たかった唇がほんわかと暖かくなってきた。
はむはむと軽く啄まれてくすぐったい。
「一人になんかしない。」
真正面から見つめられて、また涙がぶわっと溢れてきた。
「だって…だってあんなに愛し合ってたお義父さん達だって…」
それ以上言葉が続かない。
そんな僕をあやすように日向が背中をポンポンと叩きぎゅっと抱きしめてきた。
「それでも一人にはしない。」
なぜそう断言できるのか不思議に思ったけれど、自信満々な日向にもう尋ねることはできなくて、それでもなぜか急速に心は落ち着いていった。
「瑞季…セックスしよう。」
あからさまな単語に驚いた僕は
「何言ってんの?葬儀終わったばかりだよ?
『喪に服す』って言葉知らないの?」
「俺達がちゃんと愛し合って前を向いて生きる方がお袋への弔いだよ。
いいからおいで。」
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