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第218話
side:日向
遮光カーテンの隙間から薄く漏れている月の光に照らされて、愛おしい伴侶が泣き疲れて眠りについている。
乱れた髪をそっと搔き上げると くすぐったかったのか、んっ と一言呻いて、俺の胸に擦り寄ってきた。
細い肩にそっと布団を掛け直し、そのまま抱きしめる。
規則正しい寝息と心臓の鼓動が伝わってきた。
昨夜の瑞季の様子はおかしかった。
もともと瑞季は性的なことに淡白で、おまけに恥ずかしがり屋のコイツがあんなに俺を求めてくるのは滅多にない。
うわ言のように『離さないで』『僕を愛して』と言い続け、俺にしがみついて離れなかった。
やっぱり…お袋の死が原因だろう。
あのパワフルで病気のほうが逃げて行きそうだったお袋が弱っていく姿を一番間近でずっと見ていたんだ、無理もない。
愛する伴侶を失う親父の気持ちもわかりすぎるほど理解している。
生い立ちが拍車をかけたのか、昔から人の痛みに敏感で共鳴しやすかった。
今も…大切な人を失った悲しみと痛みに支配されている。そう、瑞季自身だけでなく、お袋を失った親父や俺、朝陽やじいちゃん、ばあちゃんの…俺達家族全員の心にリンクして心が悲鳴を上げている。
愛し合っていてもいつかは必ず別れがくると。
折れそうな心を俺の愛を確かめることで必死に耐えている。
俺がしてやれるのは、瑞季を抱きしめ愛の言葉を刷り込み、安心させてやることだけ。
瑞季が落ち着くまで、側にいてやろう。
この際だから、有休も余分に申請して…瑞季の心の傷が癒えるまで、俺の愛情を惜しみなく注いでやろう…
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