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**運命のひと。**(1)

「お兄ちゃん、ばいば~い」 「ばいばい、可愛がってあげてね」 「うん! ヒナ、すっごく大切にするっ!」  小学三年生くらいだろうか。艶やかな黒髪に、クリッとした目が印象的な、金魚の尾びれにも似た、ひらひらな桃色のワンピースを着た、可愛い女の子。  名前は、ヒナちゃん。  当時、二十三歳の俺が、初めてひな人形を作った時のお客。  俺の家は代々、雛人形を生産しており、父は十代目にもなる。  そんなわけで、俺も小さな頃からみっちり扱かれ、ようやく完成した雛人形。  内裏雛しかない粗末なものだが、それでも一生懸命作ったのを覚えている。  その思い出深い人形を、可愛い女の子が目に止めて、買ってくれた。  とても嬉しい思い出で、今でも心に深く刻まれている。  お雛様の名前も似ている、可愛らしいあの子。  十年が経った今の彼女は、いったいどんな女の子になっているのだろう。  ……期待に胸を膨らませ、昔のことを思い出す。  俺はもうすぐ、父の代を継ぐ。  なのになぜだ。  どこで間違ったのだろう。  十年振りに再会したヒナちゃんは、「ちゃん」ではなかった。  艶やかな黒髪は肩までで、白いシャツに、デニム姿。  大きな目は変わらない。  細い身体のラインも……うん、昔と変わらず、華奢な感じ。  背だって、俺より頭ひとつ分低い。  だが、ヒナちゃんは、彼女ではなく、「ヒナくん」だった。  正式には、陽向(ひなた)くん。

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