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続**運命のひと。~奪われたファーストキス**(1)
「ヒナちゃん、ゆっくりしていってちょうだいね?」
ローテーブルを挟んで向かい合う俺をそっちのけで、母さんと会話している。
「は~い、ありがとうございます」
彼女――もとい、彼の返事に安心した母さんは、もう一度手を振ると、俺の部屋を後にした。
「…………」
なんでこうなったんだ?
何をどこで、どう間違えた?
すっかり母さんと打ち解け、ひらひらと手を振っている美少女? な陽向 を恨みがましく睨みつければ、陽向はにこにこと笑う明るいヒナちゃんではなく、口角を上げ、俺を見つめる、年頃の青年の表情へと変わった。
「なんで許可無く俺の部屋に上がるの?」
「言ったでしょう? あんたが気にいったって」
「俺は男だ。男同士でイチャつく趣味はねぇ!!」
きっぱりと言ってやれば、だけど陽向は引き下がらない。
「『同性』とかじゃなくって、俺を見てよ、誠二 さん」
「見てって言われても……困るものは困る」
そりゃね? 男同士の恋愛については俺も別に偏見はないよ? だが、俺は男に惚れる趣味はない。
無言で首を横に振れば、さっきまで俺を見つめていた視線はテーブルへと移動している。
「俺だって……好きで同性を好きになったんじゃない。相手が誠二さんだから……だから俺は……」
顔を俯け、そう言う陽向は、さっきまでの自信溢れる物言いではなく、今にも崩れてしまいそうなくらい、苦しそうな声をしていた。
鼻をすする音が聞こえる。
まさか、泣いているのか?
俺が泣かしたのか?
「ちょ、まてっ!」
なんでそこで泣くんだよ!!
さっきまでの強気はどこに行った?
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