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続**身代わり。~登校**(1)
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時刻は午前七時半。俺は高橋と学校に行くことを約束した翌朝、いつもより少し早めに家を出た。
恋人と登校とか、今まで経験なかったから、なんかすごくこそばゆい。口元が緩んでくるのは仕方ないよな。
それで、意気揚々と高橋の家に来た俺だが、肝心の高橋はっていうと……。
うん、学ランは着てる。
だけど、相変わらず自分の部屋で、いまだに布団にくるまっているわけで……。
高橋の両親は共働きで、六時には出勤するんだって。
だからこの時間帯は、ここでは俺と高橋のふたりだけだ。当然、俺を加勢してくれる人間はいない。
「ほら、行くぞ」
布団を引っ張って、高橋をベッドから力尽くで引きずり下ろそうとする俺。
「だめ~。やっぱり緊張するっ!」
「うわわっ!」
だけど、火事場の馬鹿力ってすげぇな。有り得ない力で布団を引っ張り、俺は高橋の下敷きになった。
「なんだよそれ! ガッコ行くって言っただろうがっ!」
「だって、名取くんとなら行けると思ったんだっ! でも、でもさっ!!」
「『でも』はなし。ホラ行くぞ」
ガシッと肩を掴み、ベッドから出そうとするものの、高橋は往生際が悪い。
「いやだあああっ!!」
泣きべそをかきながら俺を抱きしめてくる。
十六にもなって泣きべそかくなよっ! 泣きすがる姿が可愛いじゃねぇか、こんちくしょー!!
「なんなんだよ! じゃあ、どうしたら言うこときいてくれんの?」
「名取くんを抱きたい」
なんとか高橋を学校に登校させたくて、できるだけのことは配慮してやろうと訊ねれば、高橋は涙声で答えた。
「…………」
……はい?
朝っぱらからおかしな言葉を聞いたのは、ただの聞き間違いか?
「なんだって?」
もう一度訊ねてみる。
「名取くんを抱きたい」
……ああ、やっぱり聞き間違いじゃなかった。
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