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**捨てないで**(2)

 そもそも数人様がこの郭に通うことになったのは、ご両親の言い付けだったんだ。数人様がいつになっても色恋沙汰に興味を持たないから、無理矢理連れて来られた。ただそれだけ。  そしてここへ来た数人様がたまたま昼見世に出ていた売れない色子の僕を目に止めた。  彼は僕のことを、『ゆっくりできる空間』としか思っていない。  僕だけが数人様を想っている……。  はじめは一目惚れだった。  だけど話をしてみると、とても身分が高い方なのに気さくで、色子の僕を一人の人間として扱ってくれたんだ。  そして、抱かれた。  力強い腕を知り、体の温もりも知った。  数人様に逢いたい。  改めて恋心を自覚すれば、胸が締めつけられる。  苦しくて、息ができないほどに……。  ――昼九つ時(※現代の十二時)見世がはじまる頃。案の定、僕は楼主から昼見世に出るよう言いつけられた。  行き交う人が強い風から身を守るようにして、目の前を通り過ぎて行く。  僕は自分が空気になったような気分で赤い格子から外を見つめていた。  するとふいに僕の視界が麻でできた紺色の着物に塞がれた。見上げると、スッと通った鼻筋に、一重の細い眼の――健康的な肌をした優男。 (うそっ、数人さん?) 「どうして? 今日は、てっきりお見えにならないとばかり……」  二階にある、とある一室に彼を通し、二人だけになった床で(たず)ねると、僕はすぐさま夜具の上に押し倒された。  僕を力強い両腕に閉じ込めると彼は静かに薄い唇を開いた。

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