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**お馬鹿ほど可愛い**(1)
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「うええええんっ! 良 、助けてっ!!」
深夜三時。俗に言う丑三つ時。深い眠りに落ちようとしたまさにその瞬間、俺は突然の電話で起こされた。
電話の主は右隣に住む幼なじみ、遠藤 直 だ。
「今度は何だ?」
幼なじみにたたき起こされ、不機嫌に訊 ねるのは、これが初めてではないからだ。
「夢の中で良が出てきて、眠れなくなったのっ!!」
泣きながらそう言う彼は、お馬鹿で天然だ。
「そうか、へぇ~。じゃあ、夢の中の俺に怒っておいてやる。おやすみ」
はいはいといつものように適当に聞き流す。
だが、俺の幼馴染みは聞き分けない。
「良、良に会いたいのっ! 今から行ってもいい?」
ベランダを伝って窓から来るのだろうが、さすがにこんな時間だ。もし、足を滑らせて怪我でもしたら危ない。
「……わかった。俺が行くから少し待ってろ」
そう即答した俺はかなりの過保護かもしれない。
まあ、これも惚れた弱みっていうやつだろう。
――俺は彼、直に恋心を抱いている。
直とは小学の時からの家族ぐるみの付き合いだ。直の成績は悪く、テストの点数も一桁が目立つ。運動神経さえも皆無。
何より馬鹿さ加減には呆れるほどだ。足元にアリがいると、踏まないようにつま先立ちで避けて、自分の方が転んで怪我をしたり……。
はじめは、お馬鹿で危なっかしい彼を見ていられなかった。だが今はどうだろう。世話を焼いていくうち、いつの間にか恋へと変わっていた。
直のへにゃっと笑う締まりのない笑顔が可愛いと思うくらいに――。
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