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**お馬鹿ほど可愛い**(2)
ベッドを抜け出した俺はシャツにズボンという出で立ちのまま、自分の部屋の窓から隣の窓へと難なく移動した。
直はまだ起きている。カーテンの隙間から、光が漏れていた。
「直」
窓を開けろと硝子を叩けば、直がカーテンから顔を覗かせる。
「良、良!!」
俺の姿を確認し、窓を開けると同時に、華奢な身体がダイブしてきた。
五、六本のアホ毛がひとつにまとまって、頭のてっぺんでひょこんと立っている。
その姿さえも可愛い。
馬鹿な子ほど可愛いというのは本当なんだな。納得してしまう。
「はいはい、寝ような」
ポンポンと背中を撫で、宥めてやると、コクコクと頷いて一緒にベッドに入る。
「良……」
俺を呼ぶ、心細そうな声が薄闇の中に溶け込む。
「なんだ?」
俺が訊ねれば……。
「……なんでもない」
俺の裾をギュッと掴み、離さない。
いい加減離してほしいんだが……。
俺だって思春期真っ盛りな男子だ。好きな奴とこうも身体を密着させていると、欲望というものが頭をもたげてくるわけで……。
周囲が静かになり、直の声も聞こえなくなった。
きっと眠ったのだろう。俺は直のベッドから抜け出た。
その直後だ。
「なんで? どうして最近そうやってすぐに出て行くの?」
背後から悲しそうな声が聞こえて振り向けば、直が座っていた。
「お前、まだ起きて……」
「どうしてずっとギュってしてくれないの?」
直は俺の問いには答えず、俯いたまま話を続けた。
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