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**お馬鹿ほど可愛い**(4)
直はその時のことを思い出したのか、またもや大声で泣き始める。
目からは大粒の涙がこぼれ落ち、鼻からは鼻水が、大泣きをする口からは涎が垂れ流しになっている。
顔中、どこもかしこもびしょ濡れ状態だ。
そんな姿でも可愛いと思う俺はどうかしている。
だああああっ、もうっ!!
「直!」
尚も泣きじゃくる直を黙らせるべく、手を伸ばし、後頭部を抑え込むと自らの唇で直の唇を塞いだ。
「っふあっ、んうぅううっ!」
泣き声は俺の口の中に吸収されて消えていく……。ここぞとばかりに舌を侵入させ、口内を蹂躙すれば、甘い声が聞こえはじめた。
この声は本当に直のものだろうか。
色っぽい声を聞くと、俺の欲望が再び身をもたげてくるからたまらない。
「っふ……あ……」
さらに深い口づけをしたくなる俺の邪な願望をなんとか抑え、唇を離せば、直と交えた舌先が唾液の線で繋がっているのが見えた。
大きな目が潤み、頬が朱に染まっている。
「直、聞け。俺はお前が好きだ。だから彼女なんていない」
もっと直を感じたい。
抱きたいという欲望に染まった俺の思考。
掠れた声をなんとか絞り出し、思いの丈を告げる。
「これ、ボクの夢?」
現実と夢がごちゃ混ぜになっているのなら、そのまま現実のものにしておけば良いのに、なぜかそこは現実と夢とを切り離し、訊ねてくる。
どんなに艶やかな表情を見せても、やはり直は馬鹿だった。
「……違うし。現実」
がっくりと肩を下ろし、ダメージをくらう俺。
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