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**恋愛びより。**(1)
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「せんせ、さよなら」
昨日、三歳の誕生日を迎えたばかりのみずほちゃんがお母さんと手を繋ぎながら、空いている方の紅葉のように可愛らしい手を振ってくれる。
彼女が動くたび、ひょこひょこと揺れるツインテールが可愛くて、頬がゆるんでしまう。
「さようなら。また明日ね」
僕もみずほちゃんにさようならをして、お母さんと一緒に門から出て行く小さな背中を見送った。
僕は立花 歩 。24歳。すみれ保育園に勤めている。
ここでは最年少の保育士だ。
ここで働く人たちはみんな良い人たちばかりで、とても過ごしやすい。……んだけど、それだけといえばそれだけ。
年収は300万そこそこだし、周りは主婦の女性ばかり。
疎外感を感じる時もあったりするわけで……。
だったらなぜ保育士という職業を選んだのかというと、理由は簡単。子供が好きだから。
なんだけど……最近、その理由だけではなくなっている。
あろうことか、僕は自分が受け持っている子供さん、ひまちゃんの親御さんに恋心を抱いてしまったんだ。
その人の名前は伊阪 荘真 。
――そう。好きな人は僕と同性。
もちろん、僕はノンケ。
これまで同性に恋心を抱いた事なんてない。
だから、この感情を理解した時、僕自身、驚きを隠せなかった。
実際、荘真さんを初めて見た時だって何とも思わなかった。
――訂正。
何も思わなかったわけじゃない。
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