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**恋愛びより。**(3)
それでも僕は今、保父さんだ。失恋に胸を痛めている暇なんてない。
ひまちゃんを真ん中に、仲良く手を繋いで家に帰って行く3人に、みんなと同じように笑顔で、僕は『また明日』と手を振った。
――それから僕は悲しい気持ちのまま、なんとか仕事を終えて、保育園の門をくぐる。同時に、我慢していた涙がするりと流れた。
――ああ、もう最悪。男が外で泣くなんて。
――しかもまだ仕事は終わっていないのにっ!!
みっともなくズビズビと鼻を鳴らし、出てくる涙を拭っていると――何だろう。
俯 けた僕の頭上に影が被さった。
何事がと思って涙ぐむ目をそのままに、顔を上げると、そこにはいつも無愛想な荘真さんが立っていた。
「どうかなさったんですか?」
低い声が、大人げなく泣いている僕に話しかけてきた。
「っ、荘真さん、なんで……っ」
訊ねられた問いに当然僕は、『貴方に失恋したから』なんて答えられるハズもない。
いや、それよりもなぜ、彼がここにいるのかということが気になった。
ひまちゃんはどうしたの?
彼女さんと一緒に帰ったんじゃないの?
彼はなぜ、僕を気遣うような優しい言葉をかけてくるの?
たくさんの、『どうして』が頭の中でグルグルと回る。
すると彼は、整った眉尻を下げ、どこか困ったような表情を見せた後、口をひらいた。
「好意を抱いている人が、悲しそうな顔をしているのに、放っておけなかった。ひまは姉さんに頼んで、あのまま家に連れ帰ってもらった」
「えっ!?」
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