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**言えない**(1)

 ** 「はっ、あっ!!」  歴史学の講義が終わり、誰もいなくなった講義室。  俺は大学でできた友人――水澄 威人(みすみ たけと)に押し倒されていた。  デニムパンツのジッパーを下ろされ、引きずり出された俺の一物。それを彼の手が包み込む。  やわやわと扱かれれば、息は荒くなり、勃ち上がる。 「どうした? 拒めよ。嫌いなんだろう?」  口角を上げて意地悪く笑う奴の表情が、俺を羞恥へと誘う。 「っつ!!」  ……何故、こうなったんだろう。 「不潔だ!!」  そもそも威人がこの行動に出たのはほんの数分前のこと。  俺は、たまたま居合わせたこの講義室で、彼が俺の知らない綺麗な青年を組み敷いているのを目撃してしまったんだ。  いったい何時の頃からだろうか、『告白すれば男女関係なく抱いてもらえる』どこからともなく流れてきた噂。威人にはそんな噂があった。  だけど俺といる時はそんな素振りも見せなかった。だからその噂は真っ赤な嘘だと思っていた。  だが、それは違った。今日、俺はこの目で噂の真実を確信してしまった。  威人が悪いんだ。自分が格好いいことを知っている彼は、相手が言い寄ってくるのをいいことに、特定の相手を決めず、手当たり次第に手を出すから……。  俺は、友人という立場を取ったのに、男女見境無く手を出すから……。  だから俺は、怒りにまかせて威人に汚い言葉で罵った。  ――わかっている。こんなのはただの八つ当たりにすぎない。  俺が悪いんだ。嫌われたくなくて、威人に恋心を告げなかったから――。 「もっ、いやだ……」  自分の不毛な想いも。それを威人に受け入れてほしいという気持ちも……。  この現実も――最悪だ。 「いてっ! 何しやがんだよっ!!」  俺は握っていた鞄を彼の綺麗な顔面にぶつけると、絶望を抱きながら走って逃げた。 「霧重(きりえ)!!」  背後から、オレの名を呼ぶ怒り声が聞こえる。  告白して嫌われるのが怖くて『友人』という選択肢を選んだのに、生ぬるい関係も終わった。

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