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**言えない**(2)

 ――……。  ――――……。 「悪い、ノート取っといて。俺、帰るわ」  それから三日後。俺は中学からの腐れ縁である山中(やまなか)にそう言うと、腰を上げた。 「えっ? 今からお前の好きな歴史学じゃん?」 「ん、ちょっと用事があって」  用事なんてもちろんウソだ。  歴史学も、本当はそこまで好きじゃない。威人がいたから講義に参加しただけ――。  威人とは、一目惚れだった。  一年の時、同じ日本文化学科のレクリエーションで知り合いになった。  俺と同じくらいの身長で、すらっとしたモデル体型の彼。二重なのに童顔ではなく、年相応に見えるのは、鋭い双眸と尖った顎のせいかも知れない。  襟足までの髪を金髪に染めているからだからだろうか。ちゃらんぽらんに見えるけれど、どこか頼りになって、気さくで明るい……生真面目な俺とは違う、おおらかな性格にも惹かれていった。  一年越しの恋は――だが、三日前に終わりを告げた。  恋が終わったのだと自分に言い聞かせれば、呼吸の仕方がわからないくらい、胸が痛みを訴えてくる。  俺は涙を堪え、逃げるようにして足早に親友から背を向けた。 「逃げるのか?」  見知った声が聞こえたのは、門をくぐったところだった。すぐ目の前には、俺が密かに恋心を抱いていた彼がいた。  彼――威人は、俺を待ち受けていたかのように腕を組み、壁にもたれかかっている。  何故、彼がここにいるのだろう。  疑問が過ぎるが、答えは明白だ。不潔だと罵って、鞄で殴り、逃げたのだ。怒るのも無理はない。

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