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**もしもこの出会いが偶然ではなく必然であったならば**(1)

 **  花冷えのする季節。  ところどころに植えられた桜の木は薄花色の小さな花を咲かせ、はらはらと散っていく。  解け合うかのように重ねた肌は、触れ合うたびに汗でじっとりと濡れていく。  上気した体温が半開きになっている窓の外から入ってくる外の夜気に包まれ、心地好い。  広いホテルの一室に、ふたりはいた。  数分前はたしかに、自分は狂おしく彼を求め、彼も自分を求めていた。  それなのに……。 「俺、気になる奴ができたんだ。だからこういうことすんの、もうやめるわ……」  煙草を咥えていた薄い唇が開き、ベッドの上で余韻を楽しんでいる小松 理央(こまつ りお)に向けて、残酷な言葉が放たれた。  眉ひとつ動かさず、淡々と話す彼は、簡単に捨て去ることができる。  求め合う本来の関係ならば、理央は当然、『なぜ』と訊ねることができる筈なのだが、けれど理央にはできない。  彼にとって、理央は恋愛対象ではなかった。  彼と自分は大学の法学部で、同学年。ほんの数ヶ月前まで、接点なんてそれくらいだった。  そして理央と身体の関係になる直前まで、彼には恋人がいた。そして彼は未だに別れた彼女との恋を引き摺っている――と、そう思っていた。  だが、実際は違っていた。  なぜなら彼はもう次の恋をしているのだから……。 「……そっか、わかった。さよならっ!」  彼はまだ何かを言いかけたようだが、結果はもう既にわかっている。振られる理由なんて聞きたくはない。  理央はたたみ掛けるように別れを告げると、なんとか身体を隠せる服だけを着て、部屋を飛び出した。

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