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**言えない**(4)
よりにもよって、好きな人の前で泣くとか、もう最悪だ。
「っひ、うっ」
出てくる涙を引っ込めようとしても、現実に打ちのめされ、止めることができない。
それどころか、食い縛った歯の隙間からは嗚咽まで漏れる始末だ。
ぽろぽろと流れる涙をそのままに、潤んだ視界で彼を見る。
「好きだ」
突如として、予期せぬ言葉が聞こえた。これは俺の聞き間違い?
「なっ!!」
驚きを隠せない俺に、威人は言葉を続けた。
「何を今さらって思うだろう? お前のことを抱けないから、代わりの奴を見つけて抱いた」
思いもしなかった言葉の合間に、親指で涙を拭われ、クリアになる世界。
その視界の中で、歪んだ顔をした彼がいた。
「う……そ」
「うそじゃない。抱けないのなら、せめて友達でいようとしたのに……好きな人に蔑んだ目で見られてムカついたから……」
俯き加減で話す威人。最後の方はいつも強気な彼とは思えないほど消え入りそうな、小さな声だった。
それだけで、本当なのだと信じられる。
さっきまでの苦々しい思いが消え去っていく……。
腰を屈めて、自らの唇を、項垂れている威人の口に押し当てる。
彼は俺からの口づけに驚いたのか、息を止め、目を大きく開いた。
やがて唇が離れる。
静かな空間の中で聞こえるリップ音が心地良い。
「そいつらとは縁を切れよ!!」
俺は目をつり上げ、いまだに瞬きを繰り返している威人を睨んだ。その隙をついて、威人のポケットをまさぐり、スマートフォンを取り出す。
いくらか指先で画面をタップすると、登録先がずらりと並んでいる電話帳機能を開いた。
スマートフォンを彼に突き出す。
「……そうだな」
威人は苦笑を漏らすと、俺を抱きしめたまましゃがみ込む。骨張った長い指が何の躊躇いもなく軽快に登録先を削除していく……。
俺は威人に寄り添い、威人の綺麗な顔を見つめ続けた。
**END**
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