82 / 106

**愛恋-airen-**(1)

 ** 「別れよう」 「えっ?」  放課後。高校の誰もいなくなった教室で、俺は付き合い初めて一ヶ月になる恋人の七瀬 筑紫(ななせ つくし)に告げた。  言った声は本当に自分のものだろうか。とてつもなく冷たく、そして機械的なものだった。  その声が、静かな教室の空間に振動する。 「どうして……」  突然のことで頭がついてこないのか、筑紫は大きな目をいつも以上に大きくして、俺を見上げている。  それはそうだろう。だって昼は屋上で一緒に弁当を食った。突飛な発言に戸惑うのも無理はない。  時間が経つにつれて、彼の綺麗な瞳が大きく揺れはじめる。 「他に好きな奴ができた」  ――嘘だ。筑紫以外に好きな人なんていない。  だが、俺では筑紫を幸せにしてやることができない。  俺は揺れている瞳を真っ直ぐ見つめることができず、目を伏せた。  彼を好きか嫌いかではなく、問題なのは、俺の家系がヴァンパイア一族だからだ。とはいっても、人の生き血を吸うヴァンパイアではない。  俺は人びとのエナジーを吸って生きている『エナジスト』というヴァンパイアだ。  だからか、俺たちは太陽の光を身体に浴びても枯れ果てることはない。  人間と同じように食事だってできる。  ただ人間と違うのは、エナジーを吸うということだけだ。  そして俺は、少量ではあるが、毎日、筑紫からいただいている。

ともだちにシェアしよう!