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**愛恋-airen-**(1)
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「別れよう」
「えっ?」
放課後。高校の誰もいなくなった教室で、俺は付き合い初めて一ヶ月になる恋人の七瀬 筑紫 に告げた。
言った声は本当に自分のものだろうか。とてつもなく冷たく、そして機械的なものだった。
その声が、静かな教室の空間に振動する。
「どうして……」
突然のことで頭がついてこないのか、筑紫は大きな目をいつも以上に大きくして、俺を見上げている。
それはそうだろう。だって昼は屋上で一緒に弁当を食った。突飛な発言に戸惑うのも無理はない。
時間が経つにつれて、彼の綺麗な瞳が大きく揺れはじめる。
「他に好きな奴ができた」
――嘘だ。筑紫以外に好きな人なんていない。
だが、俺では筑紫を幸せにしてやることができない。
俺は揺れている瞳を真っ直ぐ見つめることができず、目を伏せた。
彼を好きか嫌いかではなく、問題なのは、俺の家系がヴァンパイア一族だからだ。とはいっても、人の生き血を吸うヴァンパイアではない。
俺は人びとのエナジーを吸って生きている『エナジスト』というヴァンパイアだ。
だからか、俺たちは太陽の光を身体に浴びても枯れ果てることはない。
人間と同じように食事だってできる。
ただ人間と違うのは、エナジーを吸うということだけだ。
そして俺は、少量ではあるが、毎日、筑紫からいただいている。
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