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**愛恋-airen-**(3)
そいつは初対面であるにもかかわらず、俺の意図したとおり、何の抵抗も示さずに俺の腕に自らの腕を絡めた。
エナジストは、ごくごく短時間ではあるが、自分のエナジーを代償にして他人を意志通りに動かせる特殊能力がある。俺はそれを利用した。
「はる、き……」
俺の腰にしがみついていた細い腕がするりと解けた。
「行こうか」
俺が言うと、そいつは俺の肩に頭を乗せた。
……これでいい。これで筑紫のエナジーを奪わずにすむ。
胸が張り裂けそうに痛んでもいい。これで、筑紫の身体が楽になるなら……。
幸せになってくれるのならば……。
俺は自分の気持ちにふたをして、筑紫との決別を果たした。
――翌日。
朝の日差しが目に染みる。今日が休日で良かったと、俺はほっとため息をついた。
「じゃあ、行ってくるわね? 留守番お願いね」
そう言ったのは俺の母さん。父さんと腕を組んで玄関に立っている。
もう四十代後半だというのに、二人の見た目はいまだに二十代後半で通るだろう。
普通の人間よりも年が若く見えるのは、おそらくエナジストという体質のおかげだろう。
人間から血液を奪うヴァンパイアのように不死とまではいかないが、まあ、祖母さんも祖父もいまだに元気だからな。
――なんて思っていると、チャイムが鳴った。
嫌な予感がした俺は、目の前に立っている母さんと父さんをすり抜け、ドアを開けた。
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