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**愛恋-airen-**(5)
チッ、余計なことを……。
睨む俺を、だが、母さんは無視をして、筑紫に向かってウインクすると、すぐに父さんと家を出た。俺という大きな子供がいるにも関わらず、相変わらずの仲で驚きを通り越して呆れるばかりだ。
まあ、こういう家系に生まれたんだ。絆を大切にするのは当たり前か。
俺も母さんや父さんのように、うまく力を使いこなせることができたら、きっと筑紫とは別れなくて済むのだろうな……。
家を出た二人と自分を比べてダメージをくらう。
「あの……ぼく」
筑紫の声がして我に返る。
「話すことは何もない」
筑紫を置いて玄関から去ろうとすると、またもや背中にあたたかな体温を感じた。
腰に細い腕が回っている。
「好きなんだ! ねぇ、二番目でもいいから、だから傍にっ!!」
筑紫の必死な姿に俺の心が揺れる。
せっかくの決意が台無しになるのを恐れた俺は、筑紫の腕を掴み、そのまま華奢な身体を押し倒す。
「お前は何も判っていない!!」
「……悠騎? いたっ!!」
大きな瞳は、潤んでいて、今にも泣き出しそうだ。
俺はかまわず、筑紫の手を強く握り、話を続けた。
「気がついていないか? お前が体調を崩しはじめたの、俺と付き合いはじめてからだって……。――俺は人間のエナジーを吸うヴァンパイアだ」
「なにを、言って……」
「俺と共にいればエナジーが無くなる。……昨日だって倒れただろうが!きっともっと筑紫を欲し、殺してしまう」
俺の正体がヴァンパイアだなんて言っても信じてくれないだろう。
だが、本当のことを言わなければ、おそらく筑紫はどこまでも追いかけてくる。
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