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**陰陽師は好敵手に牙を剥く**(2)

 見てろよ、今にその余裕ぶった笑みを消し去ってやる!  ギャフンと言わせてやるからなっ!!  その日、地響きを起こすような足音を立て、決意を新たに、俺はソイツの屋敷を出た。  ある日のことだ。  俺は帝に呼び出された。 『山奥で鬼が出』  なんでも最近になって神隠しが頻繁に起こっているらしい。  鬼門の方角に当たる山で鬼を目撃した民がいたと言うのだ。帝から命ぜられ、その日、夜が更けてから、俺はひとり、歩行(かち)で件の山の麓へと向かった。  今宵は満月で、月明かりが夜道をほんのりと照らす。  緑が生い茂るそこは静寂が広がっていた。  邪気の気配さえもない。  俺は周囲の様子を窺いながらも先に進んだ。  どのくらい歩いただろう。開けた場所に行き着いた。闇の中で満月がぽっかりと浮かんでいる。  とても綺麗な夜だった。  殺気なんて感じない。  俺は呆気にとられ、屋敷に帰ろうと踵を返した時だ。  油断したのがいけなかった。  背後から突然殺気を感じたんだ。  振り向けば、何時の間に現れたのか、山と同じくらいの大鬼がいた。  大鬼は大きな手を振りかざし、俺を払う。  本人は埃を払うつもりの仕草でも、ちっぽけな人間にしたら恐ろしい攻撃だ。あんな太い腕に触れられたらひとたまりもない。  俺はふんわりとかわし、地面に着地した。だけど俺の行動は読まれていたんだ。鬼の爪が俺の皮膚ごと切り裂こうとする。  体勢を崩した俺は、無様にひれ伏し、死を覚悟する。  その時だ、突然(たれ)かが俺の前に現れ、そうかと思えば俺の代わりに彼の腕が引き裂かれた。  薄闇の中で鮮血が飛び散った。  反射的に見下ろせば――……。  白の狩衣に身を包み、日頃から、うっすらと笑みを浮かべているソイツ。 俺 が知っているソイツが地面になぎ倒されていた。  ……なんで。 「ここにいるんだよ、隆晃!!」

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