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**YU-U-WA-KU**(3)

 そんな俺の心中を知らない伸司さんは、部屋に宏一の姿がないのが気になったらしい。  伸司さんに見惚れて半ば放心状態の俺に(たず)ねてきた。 「あ、大学に忘れ物しちゃったみたいで……」  ふたりきりなんてドキドキする。  そんな俺を余所に、伸司さんは俺の隣に座った。  伸司さんとの距離がずっと縮まって、もう俺はどうしていいのかわかんない。 「まったく、知明くんを置いて行くなんて困った奴だな。りんごジュースで良かったかな?」  ため息をつくなり、伸司さんは運んできてくれたジュースが入ったグラスを掲げた。 「あ、いただきます」  俺は慌ててグラスを受け取る。  んだけど、グラスを持つ手が震えちゃったんだ。  ピチャッ!  伸司さんの膝の上に林檎ジュースを零しちゃった。 「うわ、ごめんなさいっ!」 「いいよ、大丈夫だから」  俺がドジをふんでも優しい伸司さんは微笑んでくれる。  俺、何やってるんだろう。恥ずかしい。  俺は慌ててカバンからハンドタオルを取り出すと伸司さんにかかったジュースを拭き取る。 「知明くん、大丈夫だから」  伸司さんはそう言って俺を宥めてくれるけど。  ああ、もうほんっと、俺何ひとりでキョドってるかな。  情けなくて涙が出てくる。 「ごめんなさい、ほんっとすみません」  俺はひたすら謝り続けて伸司さんの太腿にこびりついたジュースをひたすら拭いていく――んだけど。

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