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二章 優等生と脱落者 13
「服着たい? でもまだ用意ができてないんだ。俺のものでいいならあるけど、どうする?」
マコトがわざと困らせようとしているのは目に見えていた。あえてタクミは彼の思惑に乗ってやることにした。
「着る」
タクミが肯定すると、予想通りマコトは驚いた顔を見せた。その子供っぽい表情に思わず気が緩みそうになる。だがタクミは流されないように自分を保ち、人好きのする顔で笑った。マコトの隙を突くなら、今しかない。
「下着とかも俺のだよ。それでもいいの?」
「洗濯してあるだろ。そんなこと気にしないさ」
もちろん嘘に決まっている。マコトの下着を身に着けると考えるだけで吐き気がする。
「貸してくれないか?」
タクミは下手に出てマコトに懇願した。
「ああ、すぐに持ってくるよ。ここで待っててね」
マコトはタクミに微笑みかけ、扉に向かうためにタクミに背を向けた。
その一瞬をタクミは見逃さなかった。一気に距離を詰め、マコトが振り返る前に後頭部を掴み、側面の壁に向かって思いきり顔面を叩きつけた。
「ぐっ……」
完全に油断していたマコトは衝撃をまともに受け、大きくバランスを崩した。タクミはすぐに手を離し、出口へ向かって駆け出した。
しかし数歩走ったところで追いつかれ、床に押し倒される。頭を打ちつけて意識が朦朧としている間にマコトはタクミの胸にまたがり、両手を首に巻きつける。タクミはマコトの手を引きはがそうとしたが、自らの両腕はマコトの膝に押さえつけられていた。
タクミは、ただ首が絞められていく様子を黙って見ていることしかできなかった。じわりじわりと圧迫していくマコトの執拗さと粘着さに叫びたくなるが、絞められた喉からはひゅーひゅーと掠れた吐息しか出ない。
タクミは暗くなっていく視界の真ん中にマコトをとらえた。怒りに満ち溢れているだろうと思っていたその顔には、歪んだ笑みが刻まれていた。
「頸動脈ってどこかなあ。ここの辺かな? あ、兄さん死なないでね。死んだら犯すから」
「……っ、ひい……っあ、あ」
マコトの指に力がこもる。このままへし折られてしまいそうだ。
意識が遠のきそうになったとき、タクミの脳内にもうひとりの自分の声が聞こえ始めた。
――それでもいいんじゃない? どうせ帰る場所はないんだからさ。
その通りだ。自分の居場所なんて、どこにも残されていない。タクミは不思議なほど冷静だった。死の瞬間とは、こんなに穏やかなものなのかと。
「いいか、死ぬなよ!」
だったら、その手を離してくれ。
放つべき言葉は声にならず、タクミの意識は闇に飲まれた。
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