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二章 優等生と脱落者 14
ついに殺してしまった、とマコトは思った。動かなくなった兄の首から両手を離す。恐る恐る口元に手を翳すと、微かに吐息が漏れた。ハッとしたマコトが胸に耳を押し当てると、暖かい鼓動が聞こえた。
「……生きてる」
マコトの目から涙がこぼれる。タクミの身体を起こし、両腕でぎゅっと抱き締めた。意識こそないが、彼が生きているという事実だけで、マコトは全てを赦されたような気がした。
「……良かった……っ……タクミ」
兄の肩に顔を埋め、マコトは静かに泣いた。
ひとしきり泣いてタクミに慰めてもらった後、マコトは急に現実に戻った。胸にぽっかりと孔が空いてしまったようだ。
この聞き分けがない愛しい兄を、どうやって繋ぎ留めておこうか。
タクミをベッドに寝かせて彼を見守りながら、マコトはある男に連絡を取った。彼はすぐに行動してくれるようで、品物が届くには半日程かかるらしい。
それまでの時間、マコトはずっとタクミに寄り添っていた。兄の喜ぶ顔を思うと、自然と頬が緩む。
「あ……服」
そういえばタクミは服を所望していた。今なら眠っているし鍵を掛ければ大丈夫だろうと、マコトは一度部屋を出て、タクミに似合いそうな服を見繕った。
兄はいつも黒いレザージャケットにシルバーのアクセサリーを好んで身に着けていた。マコトはタクミにはシンプルで上質なものを着てほしいと、常々思っていたのだ。
白のYシャツと細身のスラックスを用意して、タクミが眠る部屋へと戻る。
鍵を開けて慎重に扉を開く。兄はまだ眠ったままだ。マコトは安堵の息を吐き、起こさないように注意して、タクミを着替えさせた。
自分より小柄な兄には、やはり大きいようで、裾や袖をめくってあげた。班渇きの髪もタオルで水気をふき取る。風呂上がりの兄は火照った身体が艶っぽくて、思わず手を出しそうになるが我慢した。楽しみはあとに取っておきたいからだ。
それから数時間後、待ちに待った最初のプレゼントが届いた。早くタクミに見せてあげたい。
「楽しみだねぇ、兄さん」
明るい口調とは裏腹に、マコトの目は暗く歪んでいた。
「絶対気に入ると思うよ……」
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