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三章 優劣と陥落 5
タクミの為に用意した部屋には、外から厳重に鍵を掛けている。部屋の内側に窓はなく、この扉以外に逃げ道はない。それに加えて、兄には首輪を着けている。万が一、首輪の鎖を外してこの部屋から逃げ出せたとしても、首輪がある限りタクミはマコトから逃げられないのだ。
時刻は深夜0時過ぎ。扉の鍵を開け中に侵入したマコトは、足音を立てないように注意し、ベッドで眠る兄の元へ近づいた。
タクミは幼い頃から右側を向いて身体を丸めて眠る。今も昔と変わらない姿で壁を向いて眠っていた。寝間着用に与えたTシャツとスウェットは、やはりタクミには大きくて、どことなく過護欲をそそられる。
マコトはベッドに上がり、すやすやと眠る兄の隣に横たわった。シングルサイズのベッドは男ふたりが寝るには窮屈だが、互いに密着すれば何ら問題はない。マコトはタクミを抱き込むように、その細身の身体に腕を回した。項に鼻を寄せ、兄の体臭を嗅ぐ。
「……タクミ」
兄の身体からは清潔なボディーソープの香りがした。同じ製品を使っているとは思えないほどの匂いに、マコトは理性を保てなくなってきた。
Tシャツの上から、そっと胸の突起に触れてみる。しばらく刺激し続けると、タクミの乳首は服の上からでも分かるほど勃ち上がった。本音を言えばプクリと尖った乳首に舌を這わせ、思う存分舐め回したいところだが、眠っている兄の邪魔はしたくなかった。
タクミの色香にあてられて、自身のそこが固くなってきている。これ以上ここにいたら、無理矢理自身を埋めてしまいそうだ。
最後にキスマークだけでも残そうと首筋に顔を寄せたその時、寝ているはずのタクミが起き上がり、頬を思い切り平手打ちされた。
「キモいんだよ、この変態が」
いつになく低い声でタクミに拒絶された。打たれた勢いで不様に床に転げ落ちたマコトは、ベッドの上で肩を怒らせる兄を見つめた。
鎖で繋がれたタクミは、自分の言動が自身を追い込んでいることに気づかない。それで逃げ道がなくなるなら放っておこうとマコトは思った。
最終的に兄が頼れるのは、弟である自分だけなのだから。
マコトはゆらりと立ち上がり、再びベッドに上がってタクミと向き合った。マコトが身体を寄せた途端、あからさまに兄の表情が青ざめた。
「まだ起きてたんですか。いけない人ですね」
「……黙れ」
「こう見えて、けっこう痛いんですよ。このままじゃ、明日顔が腫れちゃうかもしれない。俺そんな顔で兄さんと会いたくないなぁ」
マコトはタクミの右手を取って、自らの左頬にあてがった。タクミに打たれたそこは、微かに熱を帯びている。
「まぁいいや。そういえば、そろそろ誕生日だよね。俺プレゼント用意したんです。気に入ってくれると嬉しいな」
プレゼントという単語に、タクミは嫌な予感しかしなかった。批難を浴びせようと発した言葉は、マコトの口によって塞がれた。
「ふっ…う、ん…はっ」
後頭部を掴まれ、乱暴に舌を喰まれる。淫らな水音が無機質な部屋を華麗に彩った。
長い口づけが終わり、ようやく解放される。マコトの手から逃れたタクミはそのままベッドに倒れ込み、乱れた呼吸を整えながら口を拭った。
「では、また明日」
タクミの様子に満足したマコトは、そう言い残し、勃起した自身を慰める為に部屋を後にした。
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