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四章 憎悪と破壊願望 3

 兄と最後に会話をしたのは、いつだろう。近頃姿すらも見なくなった。その兄と久しぶりに顔を合わせた。それがあの忌まわしき日、タクミが女と寄り添って歩いていた、あの瞬間だ。  マコトは何事もなかったかのように、その場をやり過ごした。だが心はズタズタに切り裂かれていた。自分でも理解出来ないどす黒い感情が、全身を支配していた。  ――タクミは俺だけのものなのに……。  その足で自宅に戻ったマコトは、両親に二、三日家を空けてほしいと頼んだ。大事なテストがあると言えば、両親は喜んでマコトの言いなりになった。そして兄に罰を与える準備を始めたのだ。  次の日の夜に帰ってきたタクミは、マコトに気づかずに、そのまま就寝した。寝入った頃合いを見計らってマコトは部屋に侵入し、タクミの服を剥ぎ取って全裸にして、両腕を拘束した。それからタクミが目覚めるまで、彼自身を愛撫し続けた。  これは罰だと頭では分かっていながらも、マコトは自身の欲求を抑えられなくなっていた。このまま組み敷いて、思い切りなぶりたい。凶暴な思いが頭を駆け巡る中、ようやくタクミが目覚めた。  それからマコトは、思う存分兄を蹂躙したのだ。自身で妄想した内容を、再現するかのように。  翌朝、タクミの姿はなかった。逃げ出した兄に怒りを覚えたが、漠然とこれで良かったんだとも思った。どうせ、いつか帰ってくる。その時のマコトは、軽く考えていた。  しかし予想に反して、どれだけ経ってもタクミが戻ってくることはなかった。マコトは兄の行方を探そうとしたが、それは叶わなかった。両親の重圧のせいだ。受験を目前に控えたマコトに、必要以上に接触したのだ。  彼らが与えるストレスに苛まれ、マコトは徐々に逃げ場をなくした。高校や塾で行われる模試の点数も思うように伸びず、周囲からの目も厳しくなっていた。兄は一向に帰ってこない。それもまた、マコトのストレスになっていた。  追い込まれたマコトが行き着いた先は、失望の嵐だった。

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