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四章 憎悪と破壊願望 6
首が絞まる感覚に息苦しさを覚えて、タクミは目を覚ました。
寝返り一つうつだけでも、自らの首を絞めてしまう今の状況に、タクミはまだ対応出来なかった。おかげでロクに睡眠も取れずに、タクミの目の下にはくっきりと隈が出来ていた。
鎖の長さに気をつけながら、タクミは起き上がりベッドから降りる。さんざん弄ばれた身体は疲れ切っている。だが、それでもタクミは諦めきれなかった。首に着けられた首輪は、到底自力では外すことは出来ない。
それならばとタクミは、ベッドに巻きつけられている鎖を力任せに引っ張った。しかし金属で出来たそれはビクともせず、逆にタクミの手を痛めつけた。
「くそ……っ」
悪態を吐いても、鎖を引く手は止まらなかった。この鎖さえ外れれば、たとえ首輪が着いたままだとしても、ここから逃げられる。
しかし鎖を解くことに夢中になっていたタクミは、背後に迫る人の気配に気がつかなかった。
「何してるの兄さん」
「!」
項に吐息がかかる。それと同時に背筋にゾクリとするものを感じて、タクミは鎖を引く手を止めた。そんな兄の様子を楽しむように、マコトはさらに距離を縮めて、ピアスの外れた耳朶を舐めた。
「……っ、う」
タクミは嫌がって身体を捩るが、その声の中に漂う色香をマコトは見逃さなかった。
「あれ? ここも好きなんだ」
耳の裏側を丹念に舐めるマコトに抵抗しようにも、身体に力が入らない。嫌だと分かっていても性感帯を刺激されては、どうにもならなかった。
マコトの舌遣いは巧みだ。そのテクニックに蕩けそうになった思考を呼び戻したのは、他でもない弟の行為だった。
「痛っ……!」
タクミは悲鳴を上げた。
「痛い? 気持ちがいいの間違いじゃないの?」
フフっと笑いながらマコトはタクミの耳を噛んだ。血の出るほど強く噛んでいないそこは、たとえ歯型がついたとしても数分経てば消えてしまうだろう。一種の喪失感を抱くが、それはまた別の機会だとマコトは考えた。
「……何の用だ」
タクミは振り返らずに聞いた。
「ああ、忘れてました」
最後にもう一度耳朶を食み、マコトはタクミから離れた。タクミは肩越しに弟を睨み付ける。だがマコトはその視線すらも喜びに感じ、自然と口元がにやけた。
これから自分の身に何が起きるか分からない様子の兄は、虚勢を張ってマコトを威嚇する。マコトはタクミのこの顔が苦しく歪む様を見るのが、何よりも好きだった。そして今からやることは、兄にとって精神的に苦痛になることは目に見えている。楽しみでしょうがない。
マコトはタクミの身体を向き合わせ、恐怖に怯える両目を見据えて言った。
「兄さん、さっき逃げようとしたでしょ?」
「……してない」
「嘘吐いちゃ駄目です」
「俺は逃げるつもりなんか……」
マコトの詰問にタクミは強く否定した。しかし微かに震える言葉尻は隠せない。それがマコトを確信させた。
「お仕置きしましょうね」
「ち、違う! 俺は……っ」
叫んだ声はマコトの手に遮られた。マコトは床に座り込んでいたタクミをベッドの上に持ち上げ、仰向けに抑え込んだ。非力な身体ではマコトに敵わないことは、十分すぎるほど分かっている。それでもタクミはマコトが発した『お仕置き』から逃れる為に必死で抵抗した。
「大人しくしててね」
マコトはタクミの両手を片手で捕え、もう片方の手で自身のベルトを器用に引き抜いた。そのベルトでタクミの両手をベッドの柵に縛り付ける。その作業を終えるとマコトはベッドから降り、部屋を出て行った。
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