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七章 痛みと代償 2

 どれだけの時間そうしていたことだろう。頬に当てていた兄の手がピクリと動いた。マコトはハッとして視線を上げる。タクミは虚ろな瞳でマコトを見ていた。 「に……兄さん……」  いつから起きていたのかと問いかける前に、タクミは声を発した。 「マコト……」 「……ッ」  かすれた声で名前を呼ばれて、胸が締め付けられるような苦しさを覚えた。  タクミはその後も何かを呟いたが、発する声は弱々しくて聞き取ることが出来ない。 「何……?」  マコトは身を乗り出しタクミの口元に顔を寄せた。 「……いこう」 「え?」  タクミの右手がマコトのシャツの裾を掴む。思いのほか強い力に、マコトは上半身だけではなく片足もベッドに乗り上げることになった。 「行くって……どこに?」  今にも口づけられそうな兄との距離に、マコトはたじろいだ。そうでなくても兄の昏い瞳には妙な迫力があって見る者を委縮させる。  今まで見たことのないその輝きに、マコトは強烈に惹かれた。 「一緒に……いこう……」 「一緒に……?」  兄からかけられた言葉は嬉しいはずの言葉なのに、なぜだか違和感を覚える。兄の真意が全く分からない。何か別の目的があるのだろうか。  だがマコトの思考はそこで遮られた。タクミがマコトに口づけたのである。兄から求められたのは初めてだった。  タクミは自ら舌を突き出し、マコトの歯列をくすぐった。少しぎこちないそれでも、冷たいほどに心地いい。甘美な痺れが背筋を刺激する。もう我慢できなかった。 「……っ、ふぅ……うっ、あ……は、っ……」  蕩けるような兄の喘ぎが耳を犯す。マコトはそのままベッドに這い上がり、タクミの上にのしかかった。華奢な身体に覆いかぶさり、貪るように唇を落とす。クチュクチュと水音を立て、互いの唾液をなじませていくうちに、身体が熱くなるのを感じた。 「兄さ、ん……」  口づけの合間にそう囁くと、タクミは頬を赤く染め、両腕をマコトの首に回して抱きついてきた。目蓋を閉じて恥じらう素振りを見せつつも、積極的に自分を求める兄の姿はとても愛おしかった。 「可愛い……」  マコトはタクミの髪をかき乱し、角度を変えながら何度も何度もタクミを味わった。 「も……無理……」  しばらくすると、タクミから小さくSOSが発せられた。見ると顔中を真っ赤にして息苦しそうだ。軽い酸欠になっているのかもしれない。マコトは最後にタクミの下唇に歯を立て、それから解放した。  だが身体に籠る熱は治まりそうにもない。とうとう耐え切れなくなって、マコトはタクミに懇願した。 「挿入れても良い……?」  マコトの静かな問いに、タクミは潤んだ目を伏せ、小さく頷いた。

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