55 / 63

七章 痛みと代償 3

 兄の中に挿入するのは久しぶりな気がする。回数だけで言えば今まで何度も交わってきた。だがそれらはあくまでも一方的なもので、兄の意志など関係なかった。合意の上で抱き合えることは夢のまた夢の話だと思っていた。  だからこそマコトは、今この時を大切にしたかった。 「痛くない……?」  何度も交わってきたせいで、兄との結合はずいぶんと楽になっている。指で少しほぐしてやれば、閉じていたはずのそこは簡単に緩まり、マコト自身を受け入れる為の器になった。  潤滑剤を取りに行くのが面倒くさくて、マコトは初め自らの唾液で慣らそうとした。だがタクミは「そのままでいい」とすぐに交わることを望んだ。 「本当に大丈夫……?」  タクミに覆いかぶさったままの状態で、マコトはさらに念を押した。今の体調での性行為は、兄の身体にとてつもなく負荷がかかるだろう。このまま事に及んだら兄を壊してしまいそうだった。 「裂けて、血が出ちゃうかもしれないよ……?」  マコトはタクミを傷つけたくはなかった。だがそれでもタクミは両腕でマコトを引き寄せ、耳元で「早く」と言った。その熱を帯びた甘い囁きにマコトは折れた。性器は既に勃起している。少し扱いただけで先走りが糸を引いた。 「……挿入れるよ」  赤黒く猛ったものを兄の蕾に宛がう。色白の肌とのコントラストは、目を覆いたくなるほど不気味に思えたが、これは現実なんだと強く理解もした。  かさの部分をめりこませた時、タクミはわずかにつらそうな表情を見せたが、唇を強く噛み締め、挿入時の痛みに耐えた。  半分ほどおさめた所でマコトはタクミの顔を見た。よほど痛むのか額からは脂汗を流し、苦しそうに息を吐いていた。このまま最後までするのは無理だろう。そう判断したマコトはタクミの目を見ながら言った。 「ごめん、やっぱり今日は止め……」 「早く……欲しい、マコト……っ」 「で、でも!」 「いきたい……早く、俺を……連れてって……っ」 「……くそっ」  マコトは悔しそうにそう吐き捨てて、腰を引き、一気にタクミの中を貫いた。  ふたり分の体重を受けてパイプベッドがギシギシと音を立てる。マコトが腰を打ちつける度に、タクミは「あ、あ…ッ」と細い体をビクつかせて嬌声を上げた。  これで最後にしよう。漠然とマコトは思った。これ以上タクミを傷つけられない。苦しむ姿を見たくはない。これで最後。 「中に出しても良い……?」  そう聞くとタクミは脚を広げて、自らマコトの腰を挟み込んだ。決して離さないという強い意志すら感じられた。二人の身体がより密着したことで、互いの腹の間に挟まっているタクミの性器も反応していた。マコトは反り返ったものを手で扱き、彼自身の解放を手助けた。 「あ、んぁ、っ……も、いき……た、い……」 「タクミ……好き……」 「ひ、ぃあ……あっ……ああ……っ」 「……ごめんね……っ」  マコトは兄の中に精を放った。弟からの刺激を受けて、タクミもまた達した。マコトは最後の一滴まで吐き出した後も、タクミの中から自身を引き抜こうとはしなかった。

ともだちにシェアしよう!