56 / 63
七章 痛みと代償 4
長く息を吐く。マコトはそのままタクミの上にもたれかかった。身体の角度が変わったことで、体内を犯す凶器の位置もずれ、タクミはわずかに喘いだ。薄く開いた口から扇情的な赤い舌をのぞかせる兄の姿に、一度放ったはずの性器は一回り大きくなった。
「は……っ、ひぁ……っ、ん……」
「タクミ……ッ」
マコトは顔を寄せ深い口づけを落とす。タクミもそれに応えるように舌を絡ませてきた。もっと兄と交じり合いたい。もっと一緒にいたい。もっと繋がっていたい。マコトはそれらの想いに蓋をして、愛しい兄に最後の告白をした。
「好きだよタクミ……愛して――」
だが、愛の言葉は途中で途切れた。背中に鋭い何かが突き刺さる。息が詰まった。痛い。熱い。苦しい。
「……どうして?」
目の前の兄の顔は笑っていた。
「ど……して……タクミ……?」
ゆっくりと首を後ろに回して状況を確認すると、ナイフのようなものが背中の左側に刺さっているのが見えた。突き刺さり方は浅いが、シャツにじわじわと血が滲み始めている。その持ち手はタクミがしっかりと握っていた。
この痛みが現実なのだと、マコトはとうてい信じることが出来ない。だがその思いを裏切るように、タクミはナイフを持つ手に力を込め、より深くまで刃をめり込ませた。
「……ッ」
肉を抉る不快な響きが体内を駆け巡る。弱り切った兄のどこにそんな力が残されていたのか、不思議でしょうがない。苦しい。痛い。痛い。傷つけられたのは肉体なのに、今は心の方が痛かった。
――どうして? 何で?
こみ上げる疑問を口にしたいのに、身体は言うことを聞かない。次第に歯がガクガクと震え始めた。
ともだちにシェアしよう!