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七章 痛みと代償 5

「一緒に……行こう……」  顔を上げると、タクミはそう呟いて、もう片方の手でマコトの身体を引き寄せた。彼は優しい笑みを浮かべて、マコトを見ている。  ここにきて「そういうことか」とマコトは思い至った。兄は心中するつもりでマコトを刺したのではないか。先日のバスルームでの一件。マコトもあの時、タクミと心中するつもりで兄の命を絶とうとした。タクミも同じことを望んでいる。  ようやく想いが通じたと喜ぶマコトは、タクミが何故ナイフを所持しているのかという簡単な疑問にすら、気づくことは出来なかった。 「うん……俺、も……一緒に、逝きたい」  マコトは力の入らない両手を持ち上げ、タクミの髪を梳いた。兄と繋がったまま逝けるのは本望だ。兄の中は温かいままで、傷の痛みすら忘れさせてくれる。  マコトは目蓋を閉じタクミの首筋に顔を埋めた。 「行こう……」  顔を伏せたままのマコトは知らなかったが、この時タクミが見ていたのは弟ではなかった。タクミはその方向を見て穏やかに微笑んでいた。 「うん……早く……タクミ、も……来て……」  マコトは噛み合わない会話を続けながら、静かにその時が来るのを待った。しかし次に耳に届いた言葉で、ようやく現実を知ることになる。 「……高崎さん」

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