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episode"M" 1話
男同士が出演する素人ビデオの存在は、今の世の中じゃ少なくはない。だがそのふたりが実の兄弟で、果ては殺し合いにまで発展するものは、そうそうお目にかかれるものじゃないだろう。
だからこそ金になる。自分の組を持つようになってから、金儲けの方法のひとつとして、俺はその手のビデオを闇に流す仕事を始めた。
あの日、誠を乗せて向かった先は、人通りが少ない場所にある馴染みのバーだ。ここは店のオーナーが代替わりする前からの行きつけで、若いバーテンは何も言わずに俺と誠を奥のボックス席へと案内した。
誠の話は魅力的だった。一度聞いただけで金になると直感した。その後もやりとりを重ねるうちに、俺は誠の兄がこのバーの常連客でもある拓海だということに気づいた。
彼とは一言二言会話した程度だったが、強く印象に残っている。それだけ目を惹く容姿をしていたからだ。
俺は裏稼業の存在を伏せて誠に手を貸すことにした。世間慣れしてない誠を騙すことは容易だ。それに彼は盲目的なまでに拓海に夢中で、カメラの存在など気づくはずもなかった。
撮れ高は上々。まるで完成された一本の映画のようだった。拓海を連れて部屋を出た後、部下に後始末を任せた。兄弟の実家に火を放ち、彼らの住んでいたアパートも物取りの犯行に見せかけて荒らした。
誠の生死は確認していないが、たとえ生き延びても待っているのは地獄のような現実だ。表で生きていくには顔が知られすぎているからだ。
ビデオは高く売れた。兄は綺麗な顔をしているし、弟も精悍な顔立ちだから、その手の者には好まれる。「タクミ」と「マコト」の兄弟ものとして、あと何本か出してもいいだろう。そのくらい買い手には困らなかった。
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