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episode"M" 2話

 シーツにくるまった拓海が赤く目を潤ませてこちらを見てくる。  監禁部屋から連れ出した拓海を、俺は自宅マンションに飼っている。この部屋に連れ込んでから、もう二週間が経とうとしていた。  監禁生活の間、俺は拓海の心を操った。まるで刷り込みのように「お前を守る」と言い聞かせ、拓海の好意を自分へと向けさせた。そうすることによって兄弟の関係性に新たな刺激を起こせればと思っていたが、結果は想定外のものになった。  今や拓海は俺無しでは生きていけない。このまま放り出すよりは、手元に置いて飼い慣らした方が金になると思った。不健康なまでに白い裸体には、黒い首輪がしっかりと巻き付いている。飼い主の存在を忘れさせない為だ。  どうやら拓海は、ここに来る以前のことを忘れているようだった。当然、弟の存在も忘れているだろう。試しに「お前の主人は誰だ?」と訊いたら、躊躇うことなく俺の名を呼んだ。  それから両乳首のピアスも嵌められたままだ。そこは立派な性感帯になっていて、少し弄っただけで甘い蜜をこぼす。俺はベッドに横たわる拓海に近付いて、ピアスに手を伸ばした。 「このピアスには何が彫ってある? 言ってみろ、タクミ」 「M to T……M……から、タクミ……へ?」 「そう、M」  ツンと尖った乳頭を弄りながら俺は言った。 「この俺。真人からタクミへ。俺からお前への贈り物だ。今月誕生日だろ?」  そう言うと拓海は頬を赤らめて頭からシーツを覆った。照れているのだろう。たまに見せる行動に可愛らしいとは思うものの、その気にはならなかった。  高崎真人。俺自身忘れかけていた名を久々に呼ばれた気がした。相手は自分を指し、「山本誠です」と自己紹介をした。誠との奇妙な接点を知った時に、これは何らかの形で使えると確信していた。半年以上経った今でも、この名は有効的である。  思考に浸っていた俺を、拓海がやや掠れた声で呼んだ。 「真人……さん?」  だが、拓海がその名を呼ぶのはひどく癪に障る。俺の名を呼んでいいのは、今も昔もアイツただ一人だ。 「高崎だ」 「え……」 「前にもそう教えただろ?」  やんわりと訂正すると、拓海は気まずそうな顔をしてわずかに下を向いた。その姿がどことなく彼を彷彿とさせて、気づけば拓海を押し倒していた。 「高さ、きさん……ッ、んぅ……」 「黙れ……」  どことなく腹立たしいのは、彼の命日が近づいているせいでもあった。

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