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二章 優等生と脱落者 2

 ある日、大学の講義を受けようとしたときのことである。タクミは自分の周りに友人たちの姿がないことに気づいた。みんな寝坊やサボリだろうと最初は気にも留めなかった。その後も彼らは現れず、帰宅してからタクミはひとりの友人にメッセージを送った。しかしいくら待っても返事はこなかった。不思議に思って他のメンバーにも送ったが、結果は同じだった。  翌朝大学内で昨晩メッセージを送ったメンバーのひとりの姿を見つけた。タクミは声をかけようとしたが、目が合った途端、彼は逃げ出した。さすがにおかしいとタクミは思った。その後も手当たり次第に声をかけるが、全員が全員無視をした。異変は学生だけにとどまらず、出席を取る講義に出ても、最後までタクミの名は呼ばれなかった。やっていられなくて、その日はそのまま帰宅した。  さらに翌日、事態はエスカレートしていた。タクミが歩くたびに、どこからか嘲笑が聞こえる。何かをされるわけではないが、このままでは精神的に参ってしまいそうだった。大学中の人間から無視され、タクミはひとりだけ取り残されたような気持ちになった。  タクミの逃げ道はアルバイト先しかなかった。仕事をしていれば、多少気を紛らわせることができる。しかしその逃げ道すらも、すぐに閉ざされてしまったのだ。タクミは店長からクビを言い渡された。仕事は真面目にこなしていたし、人間関係のトラブルもないタクミには辞めさせられる理由がなかった。慌てて詰め寄ろうとしたが、有無を言わさずに店から追い出された。それでも引き下がれなくて店の前に留まっていたら、迷惑だと一括され、タクミは渋々帰宅した。  タクミは自分の周りで何が起きているのかわからなくなっていた。少しずつ自分の居場所がなくなっていく気がする。一瞬マコトの顔がよぎったが、未成年である弟にそこまでの影響力があると思えなくて、その可能性は消した。  これからどうすればいいのだろう。アルバイトはクビになり、大学にも行きづらくなった。金銭的な理由からすぐにでも新しいアルバイトを探すべきだが、今は心の傷を癒すことを優先したい。タクミは膝を抱え、つらい現実を忘れようと目蓋を閉じた。  そのとき、インターフォンが鳴った。今の自分を訪ねる人物に心当たりはなかったが、タクミは何かに呼ばれるように玄関へ向かう。扉の向こうに立っていたのは、このアパートの大家だった。

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