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二章 優等生と脱落者 4
タクミとマコトは、はたから見れば仲の良い兄弟だったかもしれない。二歳下のマコトはとにかく甘えん坊で、誰かがそばにいないとすぐに泣きだすことも珍しくなかった。家事で忙しい母の代わりに、兄であるタクミがマコトの面倒を見ていた。
タクミが小学生になり、学校帰りに友達の家で遊ぶようになってから、マコトの甘え癖はよりひどくなった。ある日タクミが帰宅して、今日の出来事を母に話すと、マコトは癇癪を起してタクミにオモチャを投げつけた。怒ったタクミが反撃すると、母は「お兄ちゃんだから我慢しなさい」と、兄であるタクミだけを叱った。同じようなことが何日も続いた。タクミが弟を疎ましく思うようになったのは、この頃からである。
タクミが中学生になった頃にはマコトも成長し、兄の身長を優に追い越していた。さすがに幼い頃のように泣きわめくことはないが、口が達者になった分、気に入らないことがあると、マコトは言葉で責めてくるようになった。小学校と中学校では生活リズムも変わってくるので、マコトが接触する機会は減った。だがタクミが帰宅すると、マコトはしつこいくらいに話しかけてきた。
タクミがマコトを嫌う理由は他にもある。タクミと違って、マコトはとにかく優秀だった。
勉強もスポーツもできて、人望も厚かった。中学校は地元でも有名な私立にしようと両親が話し合っているのを、こっそり立ち聞きしたこともある。タクミとしては、マコトにはこのまま私立に進んでほしかった。家の中でさえストレスが溜まるのに、中学まで一緒になると考えるだけで頭が痛くなる。重なる期間は一年しかないが、それでもタクミは耐えられなかった。だが現実は思い通りにいかず、結局マコトもタクミと同じ市立中学後に通うことが決まった。マコト自ら私立を蹴ったのが理由であった。
中学三年時は悲惨だった。マコトは隙あらば三年生の教室までタクミを訪ね、家の中と同じかそれ以上に関わってきた。タクミはマコトに冷たく当たったが、それはタクミの評価を下げることに大きくつながった。中学生になってもマコトは優秀なままで、出来の悪い兄であるタクミと比べられることも少なくなかった。
そしてタクミは高校受験に失敗した。家でも中学でもマコトに執拗に接触させたストレスが原因である。幸い、父も母も優秀なマコトに期待していたため、タクミの進路には無関心だった。
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