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二章 優等生と脱落者 7

 十数年聞かされていた帰宅時の挨拶が、今日ほど嫌味に聞こえたことはない。タクミが非難の意をこめて睨みつけると、反応を楽しむかのように、マコトは扱くスピードをさらに速めた。 「やめっ、ろ……って、あっ、ああ……っ」 「可愛い鳴き声ですね。まずはふたりでイきましょう」  見上げた先にあるマコトの顔にも赤みが差してくる。ふたりの解放の瞬間は、目の前だった。 「さあ、イってください」 「あああ、あぁ――っ!」  兄弟は同時に果てた。ふたり分の精液はマコトの手だけではなく、タクミの下半身まで飛び散った。荒く息を吐くタクミの視界は歪み、弟の手で射精した事実を認めようとはしなかった。だがそんなタクミを追いつめるように、精液にまみれ、ぬちゃついたマコトの手が口元にあてがわれる。 「どうぞ。美味しいですよ」  青臭い臭いが鼻を突き、生理的嫌悪感がこみあげる。タクミは奥歯を強く噛み、何があっても口を開かないという意思を表した。 「変わらないなあ、兄さんは。そんな態度取って、俺から逃げられると思ってるんですか?」  マコトの手がタクミの顔面を捕らえ、その表皮に白濁を塗りたくる。タクミは顔を背けようとしたが、マコトの指は固く閉じた目蓋にたどり着き、まるで眼球を抉り出そうとするようにその輪郭をなぞる。マコトなら目を潰しかねない。本気でそう思ったタクミは、恐怖のあまり叫んだ。 「やめろっ!」 「嫌です。やめません」  嫌な微笑みを浮かべたまま、マコトは粘ついた指先をタクミの口腔内へ突き立てた。 「うぇっ……あ、ぁ……っ」  タクミは吐き気とおぞましさのあまり無意識のうちに涙を流していた。マコトの手はタクミの舌を捕らえ、思うがままに陵辱した。大きく開かされた口の端から飲みきれない唾液が流れ落ちる。マコトの指が抜かれたときにはすでに、タクミの顔面はあらゆる体液でぐしゃぐしゃになっていた。

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