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二章 優等生と脱落者 9

「ああっ……痛っ、うぅ」  鋭い痛みが走り、タクミは全身をよじる。嫌な汗が額に滲み出た。マコトはタクミの胎内で指を折り曲げ、内側から刺激していく。そして嫌がるタクミの目を見て、マコトはその事実を告げた。 「兄さんの居場所を奪ったのは、この俺だ」 「……え」 「家や仕事、大学、恋人……。もう兄さんの行き場は、どこにもないだろ?」 「マコト、てめえ!」  ようやくタクミの中で、これまでの出来事がひとすじの線に繋がった。  恋人に別れを切り出されたのも、大学で孤立したのも、アルバイトをクビになったのも、アパートを追い出されたのも、すべてはこの男のせいだったのだ。  タクミは思いつく限りの言葉で弟を罵倒したが、中で蠢くマコトの指がある一点を捉えた途端、女のような嬌声をあげた。 「ひゃあ……っ」  前立腺を絶え間なく刺激され、一度果てたはずの性器が再びむくむくと首をもたげる。マコトは指の本数を増やし、入り口を広げるようにぐちゅぐちゅと動かし始めた。 「あぁ……んっ」 「気持ちいい?」 「いや、あ……ひいっ、あっ」  タクミは息を吸うのがやっとだった。苦し紛れに喘ぐタクミを見たマコトは、兄の中から指を引き抜き、充分に猛った自身を押し当てる。秘部に灼熱を感じ、タクミは喉を引きつらせる。ずぶりと先端がめりこみ、そこからゆっくりと竿の部分まで収まった。頭上から吐き捨てるような舌打ちが聞こえたのは、そのときである。 「……もしかしてさあ、男とヤるの初めてじゃないの?」  端正なはずのマコトの顔が醜く歪み、タクミはその表情から彼の嫉妬を読み取った。たしかにセックスする相手は女でも男でも構わない。だがその事実を口に出せないほどの空気がマコトを取り巻いていた。何も言葉を返せず、タクミは目を伏せた。 「兄さん、昔からのクセだよね。自分に都合が悪いことが起こると黙りこんじゃうの」 「……っ」 「そっかあ、残念だな」  その言葉を聞いたタクミはマコトの興味が薄れたと安堵し、わずかに力を抜いた。しかしマコトは緩んだ隙をつき、さらに腰を推し進めた。あまりに性急な肉欲に、タクミは短い悲鳴をあげた。 「兄さんの相手を見つけて消してあげないとね」 「ちが……っ」 「違わないだろ。俺自身の手でそいつを消してやる。あんたの目の前でな!」 「痛……あっ、あぁ!」 「いいか、よく聞け――」  マコトは繋がったままタクミにのしかかり、汗ばんだ前髪を掴み上げる。嫌でもマコトと目が合う。そこにいたのは、今まで見たことのないほど狂気に満ちた弟の姿だった。 「――あんたを俺のモノにするためなら、俺はすべてを捨ててやる。その代わりに、あんたのすべてを俺に捧げろ」 「あ、あっ……」 「今の兄さんにできることは、それだけだ」

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