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二章 優等生と脱落者 10
両親とは特別仲が悪かったわけではない。ただ幼い頃から弟のほうが可愛がられていたから、何となく距離が空いただけだ。
それでも母はときどき頭を撫でてくれた。もちろん小学生くらいまでの話だが。風邪を引いた日、何となくいじけてしまって部屋に閉じこもった日。寝る時間になると母が枕元にやってきて、タクミが寝つくまで頭を撫で続けてくれた。
タクミは母の手のぬくもりが大好きで、その日だけはここぞとばかりに甘えた。母と一緒に過ごした夜は、いつもよりも熟睡できた。
そして今も母と同じ手のぬくもりを感じる。撫でられる感触が気持ちよくて、もう一度眠りについてしまいそうだ。しかし、そろそろ起きる時間だ。うとうとしていた意識を引き戻し、タクミは薄く目蓋を開けた。
「おはよう、兄さん」
そこにいたのは、弟の姿をした、狂気に囚われた男だった。
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