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二章 優等生と脱落者 11
眠っている間、タクミはマコトに頭を撫でられ続けていた。その手が昨日自身を犯した男の手だと思うと、途端に汚らわしいものに感じて、タクミは思いきり振り払った。
「触るなっ!」
その勢いで上体を起こしたが、腰の奥に鋭い痛みが走って、タクミはそのまま枕に倒れこんだ。手足の拘束は解かれていたが、いまだ全裸のままシーツで覆われている状態だ。
ひとり奮闘するタクミをマコトは子供を見守るような柔らかい目で見つめ、昨日の暴行が嘘のように優しい声色で話しかけた。
「身体の調子はどう?」
「……」
「そうか、それはよかった。じゃあ、お風呂に入りましょうね」
見え透いた態度が疎ましくて、タクミは硬く口をつぐんだ。こんな男と話したくない。だがマコトはタクミの抵抗を気にも留めず、勝手に話を進めていく。
「自分で歩ける? 大変なら俺が運んであげるよ」
質問を無視すると、マコトの機嫌は急降下し、タクミの身体を覆っていたシーツを一気に払いのけた。
「……あっ」
あまりにも悲惨な自身を見せつけられ、タクミは顔を赤くした。身体のあちこちにマコトが残した咬み痕が散りばめられ、腰回りには彼のものと思われる手形が残されている。乾いた精液が皮膚にこびりつき、その有様はマコトの執念をも感じさせた。
タクミはシーツを奪い取ろうと腕を伸ばすも、無常にもその手はマコトに取られた。
「さあ、行こうか」
マコトは口元だけで微笑み、有無を言わせずに部屋の隅にある扉へといざなった。
タクミは抵抗しようと足を踏ん張るも、力の差は歴然であり、ずるずると引きずられていく。マコトは目的の扉を開けて、先にタクミを中へ押しこみ、その後自分も入って扉を閉める。そこはユニットバスだった。浴槽には湯が張られ、温かい湯気が立ちこめている。
目の前の光景に気を取られていると、突然マコトの手が肩に乗り、身体ごと正面に返された。
「昨日はお腹の中を掻き出すことしかできなかったから、今日はお湯に浸かって身体を休めるといいよ。俺はタオルを取ってくるからね」
大人が子供に言い聞かせるような口調でマコトは言った。下劣な言い回しが業腹だが、風呂に入れることは素直に嬉しかった。マコトが姿を消すと、外から鍵のかかる音がした。
タクミはマコトに汚された身体を早く清めたくて、自ら湯に浸かる。少し熱いくらいの湯加減がタクミは好きだった。温度の設定をした男が実の弟だからわかりきったことだが、嫌味なほどにちょうどいい湯加減だった。
タクミは肩まで湯に浸かり、強張った身体をほぐす。あまりにも気持ちがよかったため、タクミはそのまま目蓋を閉じた。
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