29 / 53

きみはわるい子

「ちがう……。お前にしか……、こんな、変にならねえもん……」 「変? て……、何。スゲエえっちしたくなるとか? 今みたいに。それで誰でもいいっつったらどつくけど」 「触っても……、何ともねえよ。他の奴は……」 「ホントに? つうかお前は良くても、その気にさせたら意味ねえから。どうせ流されて終わるんじゃねえの」 頬を撫でる度に、ゆっくりと瞬きしながら気持ち良さそうに委ね、何を言われても大人しくしている。 今にも眠りへと落ちそうなのに、まるで救いの手を差し伸べるかのように言葉を連ねられ、不満げな態度を取りつつも幾分かささくれだっていた心が和らいでしまう。 それがまた面白くなく、拗ねたような表情を浮かべてしまうも、結局は突き放せないと分かっている。 「ダチと……、飲むのは楽しい……。けど、お前と……、あいつらは違う。お前に触ると……、気持ちいい。何か……、おかしくなる。頭が、いっぱいになる……」 「それって……、俺のことで?」 「ん……」 控え目に頷かれると、自分でももうどのような顔をしているのか自信が持てなくなる。 全く予期出来ずに、次から次へと知られざる心情を吐露され、ずりぃんだよとは思いながらも耳を傾けてしまう。 「そんなに気持ちいいの? 俺の手」 頬を撫でると、応えるように顔を向け、上気した肌を擦り寄せる。 相変わらず熱を孕み、眉尻を下げて目を瞑り、無防備に愛撫を受け入れている。 呑気に酔っ払いやがってコイツ……、人の気も知らねえで。 間近で見つめながら、指を滑らせて髪を掻き分け、お馴染みのピアスが収められている耳朶を摘まむ。 「ねえ、たまには違うの付ければ? 毎日同じで飽きねえの?」 何の気なしに言えば、彼がうっすらと目蓋を開く。 「ん……? めんどくせえから、いい……。けど、くれるなら……、つけてやってもいい……」 「え~、何それ。自分で選べないんですか~? 真宮ちゃんは。それとも、おねだり? とびきり可愛いの選んでやろうか。言ったからにはちゃんとつけろよ?」 「ん……、考えとく……。かっこいいのにしろ……」 やけに偉そうだが、やんわりと微笑みながら楽しげに告げられ、ついもう一方の手で再び頬を撫でてしまう。 すると気持ち良さそうに目を細め、次いで犬でも可愛がっているかのように顎を擦ると、彼はくすぐったそうにはにかむ。 日頃は見られないであろう姿に、更に指先を滑らせて汗ばむ首筋へと伝い落ちれば、明らかに吐息の色合いが変わっていく。 指を辿らせ、衣服の上から胸板を擦り、乳頭を探り当てて布地ごと摘まむ。 生地と共に擦り合わせると、彼の唇からは甘ったるい吐息が零れ、悪さを行う手へと触れてくる。 「止めなくていいの? 手に力入ってねえけど。そんなんじゃ何にもなんねえよ」 手を重ねられるも、殆ど力なんて入っておらず、無骨な飾りと成り果てる。 ちらりと窺えば、ほんのりと頬を染めながら眉根を寄せ、だらしなく開かれた唇からはか細く息を漏らしている。 そっと人差し指で目尻を撫でると、ゆっくりと瞬きしてから視線を向け、眼差しには一層の淫靡さが灯る。 「で、どうやっておさめるつもりなの? コレ。お酒飲んだだけで勃っちゃうんだァ、真宮ちゃんは。恥ずかしいね」 「ん……。お前の、せいだ……」 「なんで……? お前から抱き付いてきたのに? くっ付いたらおかしくなるって分かってて、俺から離れられなかったくせに。それとも何……、これはさァ、不器用なりに誘ってんの? お酒の力を借りないと、俺に甘えらんねえのかな」 微かに開かれていた唇へと、掠めるように指を滑らせる。 とうに思考は流されているのか、文句の一つも紡がれないまま、微睡みをさ迷うように蕩けている。 隙間から指を差し入れれば、口内は抗い難い熱に冒され、唾液を絡み付かせながら暫しをさ迷う。 平常時なら噛み付かれそうだが、舌へといたずらをしても怒られず、寧ろ向こうから寄ってくる。 舌先で触れられれば、熱情を纏った唾液が絡み付き、遠慮がちに舐められる。 何を求められているのか分からないなりに、撫でるように指を擦り付ければ応え、日頃からは考えられない従順さであった。 「ホントに酒飲んできただけ? 何か盛られてきたんじゃねえだろうな」 「ん……? ん」 「ハァ、これでただ酔っ払ってるだけのほうが問題か……。飲むなとは言わねえよ、どうせ言うこと聞かねえだろうし……」 ただ、簡単に好きにさせるなと言いかけ、子供のような我が儘を振り払って口内から指を引き抜く。 ちゅ、と音を立てて艶かしい肌が露わになり、指にはねっとりと唾液がいやらしく絡み付いている。 ぼんやりと見つめられ、視線を逸らさずに近付き、やがて唇を触れ合わせる。 緩んだ唇から舌を差し入れると、劣情に蕩けた口内へと迎えられ、すぐにも淫らな相手を捕まえる。 「ん……、んぅ、は……、はぁ」 特有のざらつきを触れ合わせると、甘ったるく痺れるような感覚が駆け巡る。 それは彼も同じようで、互いの粘膜を混ぜ合わせる度に、鼻にかかった声が目の前から聞こえてくる。

ともだちにシェアしよう!