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きみはわるい子 ※

何気ない言葉であったが、思いの外切なく響く。 本当に忘れられていたら、きっと気にするくせに。 機嫌を損ねるだろうし、話したくなくなるだろうし、八つ当たりしてしまう。 彼でなければ、こんな子供のような真似はしない。 いや、真宮にこそ、そのような事をしたくないはずなのに、全てを受け止められたくてたまらないでいる。 「こんなお前に何言ったってしょうがねえのに」 でも、こんな時でもないと言えなくて。 ふ、と気付いていない振りをして微笑み、溢れそうになる本音を遠ざける。 理解されたいくせに、真っ向から口にするのは未だに気が引けてしまう。 ごまかして、茶化して、何でもない振りをして笑って、一人になると喪失感に苛まれて押し潰されそうになる。 「ん……、大丈夫、か……?」 ぼんやりと、彼を見下ろしていたつもりが、頬に触れられて急に我へと返る。 ハッと瞬きをすれば、何処と無く心配そうに窺う青年が映り、頬を擦る温もりに落ち着く。 「へぇ……。酔っ払ってても、そういうのは分かるんだ」 「お前は……、わかりやすい」 「は? 真宮ちゃんには言われたくねえんだけど」 「わかってる。ちゃんと……、わかってる」 すり、と柔らかく撫でられて、えもいわれぬ感情が駆け抜ける。 「ねえ……、自分で弄ってみせてよ」 気を抜けば、どっぷりと甘えて逃れられなくなりそうで、彼へと覆い被さる。 耳元で囁きながら首筋をまさぐり、もう一方の手で真宮の腕を掴むと、物欲しそうな後孔へ導いていく。 先導して触れると、白濁に塗れていたそこはよく解れ、待ち焦がれているかのようにひくついている。 つい先程まで行き来させていた事もあり、指を咥え込ませれば容易く吸い付き、ずぶずぶと呑み込んでいく。 「はぁ……、ん、く……まだ、おれ……話、して……」 「話は終わり。もう余計なこと考えんのよそう?」 「あ……、ん、おまえ……、にげんな……」 「逃げてない。人聞き悪いこと言わないでよ」 「ぜん……、俺は」 「だから……」 咄嗟に顔を上げようとすると、捕らえていた手に振り払われ、何をするかと思えば髪に触れられる。 そのまま抱き寄せられ、首筋に顔をうずめながら暫し静止し、やっぱり酔っ払うと強引だと思う。 俺の言うことなんて全然聞かない。まあ、お互い様だけど。 「なに……、酔っ払いとまともに話す気なんてねえよ?」 「どうしたら……、さびしくなくなる……?」 「は? 意味分かんねえよ」 「今も……、かなしいのか……?」 辿々しく問われて、言葉を失ってしまう。 正確には、紡いだ瞬間に溢れてしまいそうで、口を開いてから塞き止める。 ヤッて終わり、それでいいのに、どうしてこうも今夜は面倒臭いのだろうと、眉根を寄せて考え込む。 一番に面倒臭いのは自分だと、それは重々承知しているのだけれど、思うようにいかない展開に苛立ちを募らせてしまう。 理解されたい、でも踏み込まれたくない、かっこわるいところも見せたくない、けど分かってほしい、なんて、我が儘でしかない感情ばかりが渦巻き、もうとっくに収拾がつかない。 今のお前に縋ってもしょうがない、でも普段のお前にはもっと見せたくない、と混乱が増していき、翻弄されてばかりいる。 「もう、いい。やめる。萎えたわ」 深みに嵌まったら抜けられなくなる。また傷付く。 本音を覆い隠しながら、淡々と起き上がって冷めた言葉を並べ立て、一瞥もくれずに離れようとする。 しかし腕を掴まれ、とは言っても殆ど力なんて入っておらず、振り払おうと思えば簡単に出来た。 「もう、やんねえよ。やりたきゃ勝手にやって」 去ろうと思えば造作もないのに、腕を取られたまま名残惜しそうに居座ってしまい、拗ねた子供のように憎まれ口を叩いてしまう。 言ってから後悔しても、気付けばまた紡いでいる。 複雑な表情を浮かべ、離れられないまま指を動かし、彼の腕へと触れる。 つう、と指を滑らせて、感触を確かめるように行き来させ、やがて視線を逸らして手を止める。 「ぜん……?」 「知らない」 「ん……、泣いてんのか……?」 「泣いてねえから。何処見てんだよ、節穴」 「でも……、ないてる」 心の奥の、更にずっと先まで見透かすかのように、防ぎきれない言葉がすり抜けて響いていく。 「……何なの、お前。ホント……。ずっと平気だったのに……。お前のせいでダメになったってこと、ちゃんと分かってんの……?」 すっかり覇気を失い、今更止めても無駄であろう言葉がどんどん紡がれる。 寂しいなんて感情は、ずっと行方を眩ませていた。 悲しくもなかった、怖くもなかった、生きていても仕方がなかった。 救われたかった、必要とされたかった、愛されたかった。 幼い頃からずっと、積み重ねてきた想いの数々に蓋をして見えないように隠していたのに、彼に暴かれてからはもう、見てみぬ振りすらさせてもらえない。 「お前のせいで弱くなった……」 言い掛かりとは分かっていても、止められない。 酔っ払いに絡まれたのが運の尽きだな、と思う。

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