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その眼差しは 7※
「ん……、あ、あぁっ……!」
足裏が敷布を擦り、堪えようと足掻けども波打つ欲望は些細な刺激で決壊し、遮るものを失った快楽が我先にと勢い良く押し寄せてくる。
すでに先走りで溢れていた自身から、歯止めのきかなくなった欲望が次へと噴出され、急激に身体が鈍っていくのを感じる。
「はぁ……、は……あ、う」
漸の頭部に手を添えたまま、力なく寝台へと沈み込んで深く息を吐き、全てを解き放った甘やかな余韻に襲われる。
火照る首筋を艶めかしく汗が伝い、微かに指を滑らせると柔らかな髪の感触がして、夢心地のような浮遊感に苛まれていく。
びゅる、と白濁が噴き出してからは、とろとろとだらしなく溢れていく感覚があり、最早出尽くすまで自力では止められそうにない。
暫し脱力して、そうしてようやく惚けた顔を向けると、ちょうど漸がごくりと喉を鳴らしながら顔を上げている。
「あ……、おまえ、まさか」
「ん……。いやいや言う割に、容赦なく口ン中ぶちまけてくれちゃって。真宮ちゃんの精液で口ン中いっぱいになっちゃったじゃん。溜めに溜めてたんだ?」
「だから……、離れろっつっただろ……。それなのにお前が」
「そんなの、知らねえもん。それよかちゃ~んと残さず飲めたでしょ? 褒めてよ」
「なんでそうなるんだよ。褒める要素なんて一つもねえっつうの。怒りてえんだよ、俺は寧ろ……!」
握り拳を作るも、漸は悪びれもせずに微笑んでおり、指に付着した白濁を丁寧に舐め取っている。
「舐めんな、やめろ」
「あ、真宮ちゃんも欲しい? ほら」
「バカ、本気で言ってんのかテメエは!」
「ハハ。そ~んな怒んなくてもいいじゃん。せっかく気持ち良くなれたのに、何が不満なわけ?」
「アレもコレも全部不満だ。お前は言うこと聞かねえし」
「アレもコレもって、なァんか子供みてえ」
「あァッ?」
「はいはい、怒らない。俺は言うこと聞かねえし? あとは……? なんて? 聞いてやるって」
ギシ、と寝台がささやかに音を立て、敷布へと手を付きながら漸が下腹部から移動する。
制止する間もなく、あっという間に手を絡め取られて見下ろされ、にこやかに先を促してくる。
振り解こうとしても、手首を捕らえながら指先で掌を擦られ、まるで劣情を煽るかのようにくすぐってくる。
「あとは……」
「なあに?」
「おい、さっきからその触り方やめろ」
「ちょっと擦ってるだけじゃん。こんなので感じちゃうの? 敏感になっちゃって」
「だからお前」
「それで? あとは? 俺に言ってやりてえことの一つでもあるんじゃねえの?」
「それは数えきれねえくらいある」
「ふうん、例えば?」
「わがまま」
「はいはい、次は?」
「ん……、な、まいき」
「まだあんの?」
「あ……、はあ、クソガキ……、おい、喋ってんだろ……」
思いついた先から口にすると、覆い被さってきた漸に首筋を舐められ、徐々に上手く紡げなくなる。
たまらず声を上げても、はいはいと適当にあしらわれるばかりで不満が募り、愛撫は一向に止まる気配がない。
最後まで喋らせろと文句を浴びせようにも、自分でも驚くくらい言葉にならない声が出て、鼻にかかった甘ったるさに動揺してしまう。
「クソガキとかただの悪口じゃん」
「かわいいもんだろ」
「どこが? 傷ついた」
「ハ……、それくらいで傷つくたまかよ。あ……」
「キスしよっかなァ」
「やめろ」
「ねえ……、真宮。挿れていい?」
上体を起こした漸に見下ろされ、じっと熱っぽく視線を注がれる。
その眼差しに見つめられるだけで身体が熱くなり、どうしようもなく疼いていくのを感じる。玉のような汗を掻いて、それなのに不思議と気にならなくて、初めから互いのことしか視界に入っていない。
目眩がしそうな程の熱情に当てられ、今更抗えないことは知っている。
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