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Laurel【3】

「お前さ……、意外と健康的だよな」 視線の先では、風呂上がりの漸がペットボトルを片手に佇んでおり、肩にはタオルが掛けられている。 白銀の髪は水気を帯びて一層艶を孕み、左の眉尻には相変わらずピアスが連なっていて、照明により目映く光を纏っている。 上半身は裸であり、均整の取れたしなやかな肉体が露になっており、スウェットを穿いて無防備な姿を晒している。 「何いきなり」 きょとんとした表情で視線を注がれ、持っていたペットボトルの蓋を開けると、ミネラルウォーターをごくごくと飲み始める。 すべらかな肌は色白であり、一見すると線が細そうにも映り込むのだが、腕っぷしの強さはあの頃と何も変わっていない。 「いや……、なんとなくだ」 「ハァ? 何それ、意味分かんねえし」 「お前そんななりして煙草は吸わねえし、酒も殆ど飲まねえでそうやって水ばっか飲んでるし。後結構身体鍛えんの好きだよな」 「ああ、なんだ。そういうこと。つか意外とってなんだよ」 喉を潤し、まだ半分以上残っているペットボトルの蓋を閉め、片手で持ちながら近付いてくる。 一方の手でタオルを掴み、濡れている髪を丁寧に拭いており、意外と扱いが雑ではない男でもある。 「まあ俺に比べて真宮ちゃんは、煙草は吸うわ酒は飲むわ喧嘩が筋トレだわで、やらねえのは賭け事位? う~わ、不健康。そりゃ俺の方が健全に決まってるじゃん」 「うるせっ。見た目は全然健全じゃねえくせに」 「似合ってるからいいの。お前だって結構好きだろ……? たまにぼんやり俺のこと見てるの知ってる。気付いてないとでも思ってた……?」 「なっ、自惚れんなっ。誰がテメエのことなんか見るかよ」 「相変わらず素直じゃねえなァ。俺が格好良過ぎて見惚れてたって、正直に白状しちゃえばいいのに」 絨毯に腰を下ろし、ソファに凭れながらテレビを点けていると、視界の端に漸の足が映り込む。 テーブルへとペットボトルを置き、すぐ後ろでソファに腰掛けており、肩にこつんと膝をぶつけられる。 「煙草ばっか吸ってると、息上がっちゃうよ」 「うるせえな、ほっとけよ」 「えっちで体力もたなくなっちゃうよ? まあもたせる気なんて更々ねえんだけど」 「なっ、テメ何言って……! バカじゃねえの!」 「はいはい、慌てない慌てない。キスしてやるから落ち着けって」 「ンなのいらねっ、て、んっ……!」 いきなり何を言い出すのかと振り返れば、待ってましたとばかりに頬へと触れられ、身を寄せてきた漸に唇を奪われる。 ささやかな抵抗も空しく、容易く口内へと舌を招き入れてしまい、ぬるりと唾液を絡ませながら深く口付けられる。 「ん、ふぅっ……、ん」 すりと首筋を撫でられ、優しげな手付きで髪を弄び、頭を撫でながら甘やかなキスは続いていく。 強引に奪われ、口内をくまなく探ってくる割には丁寧であり、優しく舌を絡め取られてまるで甘やかされているようだ。 くちゅりと唾液が混ざり合い、次第にとろかされて思考へと靄がかかっていき、なんでこんな事になってんだと思うも結局いつも流されてしまう。 どちらとも分からぬ糸を引き、じっくりと暴かれて解放される頃には頬が上気し、はあと悩ましい吐息が零れ落ちていく。 「えろい顔してる。まだ物足りない……?」 「う、るせぇっ……。見てんじゃねえよ」 「あ、そっぽ向かれたら顔見えないじゃん。おい、こっち見ろよ。おーい」 「誰が言う通りにするかよ、くそっ。なんでいっつもこうなるんだよっ」 「真宮ちゃんがえろいから」 「俺に非はねえよテメエのせいだろ!」 赤くなっているところを見られたくなくて、ふいと顔を背ければ漸から非難の声が上がるも、聞く耳を持たずに熱を冷まそうと躍起になる。 「あ~……、そういうこと言っていいわけ?」 呼び掛けにも応じずに顔を背けていると、あからさまに何かを企んでいるような声が聞こえてきて、嫌な予感に纏わりつかれた頃にはもう遅い。 「うわっ、ちょ、テメ、そこはっ……、や、やめっ、ん……!」 「言うこと聞かねえ悪い子にはお仕置きしねえと。ほらほら首触られんの弱ェんだろ? 無防備に晒すとかホントつめの甘さは相変わらずだよなァ」 「んっ、あ、の頃とは、状況がちげぇだろっ……。お前に、警戒する必要もねえのに、今更どうしろって言うんだよっ……」 敏感な首筋へと指を這わされ、びくりと肩を震わせながらやめさせようともがくも、絶えず撫でられて情けない声が漏れ出ていく。 弱点であることから触られたくはないのだけれど、警戒せねばならなかったあの頃とはもう違い、今はそのような間柄ではない。 許しているのだから、本当はもう何をされたって構わない。 けれども流石に面と向かってそのようなことは言えず、未だに悪態をついてばかりいる。 「ふうん……、そうやって可愛いこと言うんだ」 「うるせぇっ。可愛いなんて言うな」 「俺に気を許してるんだな。俺の手も、言葉も、何もかもお前は……、そうやって拒まずに許してくれるんだよな。それは俺のことが好きだから……?」 「なっ、い、いまさらそういうこと聞いてくんじゃねえよっ。嫌だったら、一緒にいねえだろ……。察しろバカッ!」 「え? 何もう全然聞こえなーい。もっと声を大にして俺への愛を語ってよ。そんなんじゃもう全然足りない。もっと崇めて媚びを売れ」 「死ねよ! 調子に乗んな!」 「死ねとか酷い」 「悪かったな! て、なんで謝ってんだ……! 俺が悪いのか!」 咄嗟に謝ってしまい、ああもうと頭を抱えたくなるも、漸といえばそのような様子を見て楽しそうに笑っている。 調子を狂わせて満足したのか離れていき、咎めるような視線を向けても何処吹く風で微笑まれ、憎たらしい奴だと思っても結局はそれすら許してしまうのだ。 弱点を良いようにされることよりも、目の前で無警戒に笑う青年のほうが、今や余程自分にとっての弱みである。 「なに……? なんか言いたそうな顔してる」 「テメエに言いてえことなんか一言もねえ。とっとと服を着ろ」 「そんな照れなくてもいいのに。俺の裸なんて見飽きてんだろ」 「お、お前なッ……! なんでそういうことばっか……!」 「ハハハッ、怒っちゃった。スゲェ茹で(だこ)みたい」 「ぐっ…… 俺ホントテメエ嫌い……」 「俺は好きだよ、真宮」 「なっ……」 「ぶはっ! くっく、更に赤くなった……、おもしれぇっ」 「テメエ……、殺すぞ」 【END】

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