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Eremurus※

「なんでテメエが此処に!」 敷布を引っ掴み、幾重にも皺を刻みながら、背後の青年へと荒く声を掛ける。 今しがたまでの行動が嘘のようで、盛大に音を立てて暴れ、拘束から逃れようと懸命に足掻いている。 けれども腰へと巻き付いている腕は離れず、密着されて不快感が募るばかりであり、舌打ちを交えて睨み付けるも顔は見えない。 「アレ、覚えてねえの? あんなに楽しそうにしてたのに。まあ、無理もないか。飲み過ぎて頭痛いんじゃない?」 「それどころじゃねえんだよ! 大体俺がテメエと居て楽しそうにするわけねえだろ! 何でお前が此処に居る!」 起き上がろうとするも阻止され、大の男が朝っぱらから寝台で足をばたつかせている様は、端から見れば大層滑稽であろう。 く、と声を漏らしながら力を入れるも、容易に振りほどけるような相手ではなく、身動ぐ度に衣服が乱れて捲れ上がっている。 「酔い潰れちゃって何にも覚えてねえくせに、随分と偉そうなんだな。誰が此処まで運んでやったと思ってんの?」 「何が言いてえんだよ! テメエが介抱してやったとでも言うつもりか!」 「だったら何……? 何かもっと他に言う事ねえわけ? 真宮さん」 「うっ……、そんなわけ……」 「じゃあ覚えてんの? 昨夜お前が何処で何をしていたか」 「そ、それは……」 この男は信用出来ない。 そう思っても記憶を失っている状態では、幾ら漸の言葉を受け入れたくないと突っぱねても、否定する事なんて出来やしない。 何でよりにもよってコイツと一緒なんだと悪態をついても、何を考えようとも後の祭で、自分が介抱してやったと信じられないような台詞を紡いでいる。 「やっとの思いで此処まで運んであげたっていうのに、目の敵にされちゃって俺可哀想」 「そんなの、お前の日頃の行いが悪いからだろっ……」 「心外だなァ。俺の名前は善意の善なのに」 「嘘つけっ。どうせ俺が覚えてねえのをいい事に適当言ってんだろ」 「何でそんなに頑ななわけ? もう少しさァ、信用してくれてもいいと思うんだけど」 「テメエの事なんか信用出来るわけねえだろ!」 「でも、お前を此処まで連れてきたのは事実だし、何にもしないで大人しくお前と寝てただろ? どうにでもしてやれたのに」 するりと掌が肌を撫で、擽られて眉間に皺が寄る。 やめさせようと腕を掴んでも、さわりと腹部を指が彷徨っており、意識を注げば隙が生じて容易く首筋を舐められてしまう。 「信用ならねえ相手に、隙見せちゃってんのは何処の誰? 俺にとやかく言う前に、無防備なところ何とかした方がいいんじゃない? そんなだからこうやって、簡単に丸め込まれちゃうんだぜ……? ナキツ君に日頃から言われてないの? 気を付けて下さいって。なあ、真宮……。彼の苦労も水の泡だね、可哀想」 吐息混じりに囁かれ、抜け出そうとしても叶わずに歯噛みし、背後には嘲笑うような気配を感じる。 元を辿れば悪いのは自分であり、始めからしっかりしていればこのような事にはなっていない。 飲み過ぎには気を付けて下さいと、確かにナキツから特によく言われており、はいはいと適当に頷いては流していた気がする。 まさかこんな事になろうとは、と思ったところで何にもならず、最も厄介な相手に捕まってしまった。 「可愛いね。俺の前でお前、涎垂らしながらすやすや寝てたよ」 「うるせえっ、そんなわけ……」 「もっと気を付けないと。ナキツ君が心配し過ぎて倒れちゃうよ? まあ、もう遅いんだけど」 「おいっ……」 「ところでさァ、どうしちゃったのコレ。俺本当に何にもしてないんだけど」 言われて察するよりも先に、彼の手が下腹部へと到達してしまい、何の言い逃れも出来ずに押し黙る。 それでも触れられたくはなくて、引き剥がそうと掴んでも思い通りにならず、躍起になっている間に生地の上から揉まれてじんわりと刺激がもたらされる。 「おい、やめっ……、ふざけんなテメエッ」 「別にふざけてねえけど? もっと早くに手ェ出してあげた方が良かった? 期待してたんだ、焦らしてごめんね」 「ちがっ、これは……そういうわけじゃっ」 「でも勃ってるよ」 「うるせえっ、言うな!」 「そんな赤くならなくてもいいのに。窮屈だろ? 抜いてあげようか」 「いいって、やめっ、やめろ! さわんな!」 ふ、と耳元で穏やかに笑われ、頬が熱くなる。 腰を押し付けられ、とうに自由なんて奪われ、藻掻いても疲労だけが募る。 すでにベルトは引き抜かれていたらしく、簡単に留め金を外されてしまい、必死にその手を掴んでも追い払えない。 「ほら、真宮。大人しくして」 「誰がそんなっ、ん」 「観念しろよ。どうせ逃げられないんだから。いや、違うか。本当は逃げる気もねえんだろ……?」 即座に言い返そうとするも首筋を舐められ、羅列が引っ込んで息が漏れる。 過敏な部分へ舌を這わされ、失ってはいけない力が急激に奪われ、勝手を許して下腹部に刺激が走る。 気付いても遅く、首へねっとりとざらつきが這い回り、疼くような刺激に自然と歯を食い縛る。 「んっ……、やめ」 身を捩っても逃げられず、そうする事でより深く捕らわれてしまい、胸元まで服を捲られて掌が這う。 「おいっ、テメエいい加減にっ……」 上体を起こそうとすれば、より隙間が生じて彼の腕が絡み付き、あられもない格好を強いられている。 背後へ呼び掛けても、無言で首筋へと吸い付かれ、胸元には指先が滑る。 何処から阻めばいいのか、どうしたらいいのかと混乱しても、下腹部にはもう一方の手が自身を引き抜いており、すでに熱を孕んでいたそれを扱いている。 胸の尖りを弄られ、指の腹ですりと擦り付けるように刺激を与えられ、じんわりと少しずつ熱情が籠る。 声を殺し、いつしか悪態すらつけなくなっていき、枕に顔を埋めて息遣いすら聞かせないように微細な努力を講ずるも、彼の手は更に煽っていく。 「はっ、はぁ、や、め……離せ……」 紡いでも虚しく、いつの間にか淫猥な空気が立ち込め、吐き出されていく声には僅かな劣情が孕む。 抵抗しても徒労に終わり、熱情に塗れていく自身からは先走りが漏れ始め、身体は簡単に裏切っていく。

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