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Eremurus※

顔を上げ、意地でも引き剥がしてやろうと躍起になり、漸の頭部を押す。 渾身の力を入れるも、施されていく愛撫に邪魔をされ、しばしば中断を余儀無くされてしまう。 押さえ付けている掌に、さらりとした白銀の感触が居座り、尚もお構いなしに胸元へ顔をうずめている。 やめろ、と何度繰り返しても意に介さず、無理矢理に離れさせようとすれば歯を立てられ、十二分の力を注ぐ事が出来ない。 「んっ……、やめ……、あっ、はぁ」 自然と目蓋を下ろし、耐えるように唇を引き結ぶも、悩ましい吐息が溢れていくのを止められない。 掴んでいたはずが、撫でるように指先が髪を滑っていき、延々と胸の尖りを辱しめられて熱くなっていく。 かり、と時おり歯を当てられ、やんわりと噛まれたり吸われたりと忙しなく、そのようなところで感じている事実に愕然とする。 こんな事があっていいはずがない、無抵抗に近しい身でありながらも彼へ触れたまま、甘やかな声を漏らして押し退けようとする。 だが無駄であり、とうに無意味であり、ぴちゃりと鳴り響く其処からは甘美なる欲望が熱を孕み、悦んで愛撫を受け入れている。 「なんでそんな……とこ、んっ、はぁ」 途切れながら紡いでも、苦労虚しく彼からは全く応答がなく、一方の尖りには指を這わせられている。 摘ままれ、捏ね回されては弾かれ、手爪先でじわじわと刺激を与えられていくうちに、あらぬ快感が確実にわき上がってきている。 「ん、おい……、おいって、あっ、なんとか、はぁ、あっ、言えよっ……」 早く離れさせなければと、やるべき事は分かっているのに捗らず、執拗に植え付けられていく愛撫からやがて快楽が生まれ、下腹部が再び熱を帯び始める。 「うっとりしちゃって。そんなに気持ちいいんだ」 「んっ、違うって、言ってんだろっ……」 「ふうん。違うならさァ、どうしてまた勃ってきてんの。さっきあんなに出したのに」 「それはお前がっ……」 「俺? 俺が何……」 「お前、が……」 「綺麗なお口があるんだから、ちゃんとお喋り出来るだろ? どうしてこんな風になっちゃったのか言ってみろよ。何されちゃったの……? 教えてよ」 「あっ……」 「真宮……。ほら、聞かせてよ」 「あっ、やめ……、もう……」 雁字搦めにされていく、気が付けばもうその手から脱け出せなくなっている。 漸が顔を上げ、覗き込みながら優しげに囁くも、視線をまともに合わせられない。 枕へ沈み、強気な様が少しずつ黙らされていき、言葉が見つからなくて顔を背けてしまう。 ふ、と彼が静かに笑み、促すように唇へと指先が触れ、するすると滑る。 くすぐったいような、何とも言えない刺激をもたらしながら指を遊ばせ、触れるだけの口付けが唐突に降ってきても阻止出来ない。 「んっ……やめ」 「まだ言ってんの……? それって本心? そんなわけねえよな。だって此処、こんなに期待してるもんな」 「はっ……あ、ちがう……ちがっ」 「何が違うの? やらしいの一杯出てるよ。あんなに出したのにまだ足りないんだ。えっちだね」 「ん、んぅっ……、はぁっ、あ、ぅ」 刷り込まれていく言葉に呑み込まれ、言ってやりたい事が本当は山程あるはずなのに、紡ぐ度に漸が舌を絡めてキスをする。 そうして肌を撫でられ、自身へと軽く触れられ、どうしたらいいのかどんどん分からなくなって袋小路へ追い詰められていく。 彼が喋り、舌を絡め、そうしてまた何か囁いて、ちゅ、と音を立てながら口付けをして思考を浚う。 感覚が麻痺して、拒まなければいけないのに舌を差し出したまま、満足そうに口角をつり上げる唇が迫り、粘膜が絡み付く。 「はぁ、はっ……、お前、なんか……」 「大好き……?」 「んっ……、きらい、だ……」 「はいはい。あ、もしかして俺の身体目当てなわけ? 真宮ちゃんてば酷い」 「なっ、ちが……なに、言って、あ、あぁっ」 「俺は何だと思う……?」 ふ、と笑んだ彼が離れていくと、下腹部へと再び抗い難い快感が迸り、逃れなければいけないのに涙ばかりが溢れていく。 頬は上気し、誘うように淫らな吐息を漏らし、先走りが伝っていくのが分かってしまう。 幾度となく続けられた口付けに、唾液が顎を滑り落ちるも構っていられず、目先の欲望に今にも浚われてしまいそうだ。 何処までも甘やかで、それでいてふしだらな空気が漂い、とうに毒されてより多くの蜜を溢し、彼の手によって翻弄されている。 気持ちいい、もっとしてほしい、過る忌々しい感情を必死に追い払うも、込み上げる快楽が嘲笑う。 どうする事も出来ない、抗うだけ無駄だ、何を迷う必要がある、全て受け入れてしまえば楽になれる、次から次へと悪魔の囁きが入れ替わり立ち替わり苛み、堕ちろ堕ちろと此の身を引き摺っていく。 「あっ、あ、ぅ……、もう、さわるの、や、あ、あぁっ」 「自分でする……?」 「んっ、い、やだ……」 「ふ、わがまま」 「なんでっ……、んっ、あ」 なんでそんな事言われなきゃならないんだと言い返してやりたくても、瞳を潤ませて感じ入るばかりで、抵抗すらまともに出来なくなってしまっている。 先走りを掬われ、あらぬ刺激を感じた頃には何かが押し入り、指だと気付いた時には其処を行き来されている。 忘れてしまいたいのに、こんな事もう二度とごめんなはずなのに、受け入れているかのようにぬちぬちと音を立て、彼の指が後ろを解していく。 起き上がる事すら出来ず、何もかもが地に堕ち、今では舌を見せて媚びるような声を漏らしている。 「はぁっ、く、んっ……、あ、あぁっ」 耳を塞ぎ、目を背けたい現実から僅かでも退きたくて、口許を手で押さえ付けるも劣情が滑り落ちる。 首筋に汗が煌めき、髪が乱れても構わずに弱々しく頭を振り、何に対する意思表示なのかも次第に分からなくなっていく。 唾液が糸を引き、声が掠れ、それでも絶え間なく続いていく行為に引き摺られ、感じ入るあまりに涙を溢し、頬を熱くする。 「はぁ、あっ……ん、ふっ」 「相変わらず強情な奴。とっくに我慢出来ないくせに。分かる……? スゲエひくついてるよ。何が欲しいんだろう」

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