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Eremurus

美々しき青年が、何事も無かったかのように相対し、じっと見つめている。 白銀を揺らし、柔和な表情を浮かべていながらも、眼差しは何処か冷たい。 視線を逸らせず、何か言わなければと唇を開くも、なかなか紡げないでいる。 言葉を選ばなければ、慎重に事を運ばなければ、すぐにもボロが出てしまいそうな気がして肝を冷やす。 しかしながらずっと黙っているわけにもいかず、平静を装いながら敵対者らしい台詞を紡いでいく。 「何処へ行こうが勝手だろ。それはそうと、随分と舐められたもんだな。気安く声掛けられるような仲か?」 突き放すも、銀髪の青年は揺らがず微笑み、目の前で優美に佇んでいる。 さっさと何処かに消えてくれ、と心中で訴えるも、彼が何を考えているかなんて誰にも分からない。 後ろ暗い秘め事を共有し、離れなければと思っているのに、気が付けばいつも抜けられなくなっている。 周囲の喧騒が、彼を前にして次第に遠退き、鼓動がやけに大きく感じられる。 どうしてよりにもよって今なのだと、悪態をついたところでどうにもなりはしないのに、再会を恨めしく思わずにいられない。 「冷たいなあ。お友達でしょ……? 俺達」 「なった覚えはねえけどな。テメエらとなんか御免だろ」 「そう……? 話せば結構いい子達だよ」 「お前に言われてもな」 「一番信用ないッスよ~!」 「あ、君までそういうこと言うんだ。酷いなあ」 すかさず有仁が口を挟めば、漸が拗ねたように唇を尖らせ、始終穏やかに潔白を唱えている。 警戒を強めるも、今のところ不自然な言動は無く、一定の距離を保っている。 相容れない群れではあるが、顔を合わせたからといってすぐ喧嘩になるわけでもなく、現状では深刻な事態には陥っていない。 だがそれは、事が暴かれていないからであり、漸と育まれている忌み事を知られれば全てが砕け散る。 「相変わらず手厳しいね。特に……、ナキツ君。そんなに怖い顔しないでよ。何にもしてないよ、ほら」 黙っていたナキツへと視線を向け、両の手をひらりと振って見せ付け、にこりと微笑み掛けている。 傍らの様子が気になるも、あからさまに視線を注げずにおり、ずっと口を閉ざしていた事が密かに気掛かりであった。 ナキツがよく思っていない事を分かっているであろうに、漸と言えば面白がっているのか自分から絡み、奔放な行為にますます居たたまれなくなっていく。 「そのまま立ち去って頂ければ有難いんですが」 「そんなに嫌い……? 俺の事」 「ええ。せっかくの楽しい一時が台無しですよ」 「それはお気の毒。相変わらず、虫も殺さないような顔してはっきり言うね。そういうところ好きだよ」 「ありがた迷惑ですね」 容赦無く一蹴し、優しげな口調ではあるものの、取り付く島もない。 白銀がしてきた事を踏まえれば当然なのだが、それにしてもナキツにしては珍しく、嫌悪を隠しもせずに目前へとぶつけている。 つい先程までの穏和な振る舞いが嘘のように、凍てついてしまいそうな程の空気を纏い、悪しき青年と真っ向から対峙している。 話し声を聞きながら、責められるべきは我が身も同じと、表情を険しくする。 剥き出しの敵意を自分にもぶつけられているように感じてしまい、自業自得であるのに勝手に心を抉られては突き刺さっていく。 「ナキツ君には随分と嫌われているようで。やっぱりさァ、それって真宮さんが原因……? ほんの少し話すだけでも許してもらえないなんて、ガード固すぎない?」 「貴方は抜け目がないので」 「ふうん、そう……?」 暗雲が立ち込め、すっかり置いてきぼりにされてしまい、笑みを湛えながらも何処か棘の含まれた会話が続いていく。 「ちょっと真宮さん……、何なんすかコレ。何始まっちゃってんの、ねえ」 「俺だって分かんねえよ……」 「真宮さんが仲裁すれば丸く収まりそうじゃないすか、ほら行って! 真宮さんファイティン!」 「いや無理だろ……、つうかお前こそ行ってこいよ。間に入りたくねえ……」 「何情けないこと言ってんすか! な~んか暫く終わりそうにねえし、その辺ぶらついてこよっかな~」 「ダメだ、此処にいろ」 「え~、何でなんすかァ? 超暇なんすけど」 一人にされたらますます困ると、離れようとしていた有仁の肩を掴み、ぶうぶう文句を垂れながらも観念して佇んでいる。 言葉を挟む隙もなく、未だにナキツと漸は会話を続けており、有仁は退屈そうに周りを眺めている。 どうしてこんな事になってしまったのかと、溜め息を漏らすも事態は収束せず、漸と離れてからも暫く一件を引き摺りそうな気がする。 「ちょっともういいんじゃないすか~!? まだ続けたいならとりあえずどっか入ろ!」 「おい何でそうなるんだよ」 突拍子もない発言に動揺するも、有仁といえば平然と二人を見つめており、双方の視線が向けられる。 「そうだね。でも、ご一緒するのはまたの機会に」 「無いとは思いますが、楽しみにしておきますよ」 「それはどうもありがとう。今日は沢山お話出来て楽しかったよ」 「此方こそ、実益のない時間をありがとうございます」 「俺も人を待たせてるからね。名残惜しいけどそろそろ戻ろうかな」 にこりと微笑み、面々を順に見つめながら漸が話し、連れがいる事を知る。 「ああ、そうだ。ナキツ君。そんなに真宮が大事なら、もう少しちゃんと見ていてあげたほうがいいんじゃない?」 「……どういう意味でしょう」 「何処で何してるか分かんないよ……? じゃあ、真宮ちゃん。またね」 そうして何事も無かったかのように、最後の最後で不穏な発言を残して視線を絡ませ、笑んでから悠々と踵を返して歩いていく。 あ、の野郎……!と思えど言葉に出来ず、去り行く背中を見守るしかない。 僅かな時間でも、容易には忘れられない一時となり、いいように振り回されて腹が立つも次に面と向かう日はいつになるであろう。 「え……? 何すか、今の。めっちゃ気になる台詞だけ残して消えたっすよ! 待て次回みたいな!? いやいつだよ! 答えは~!? て、そうか! 真宮さんじゃん! 何を仕出かしたんすか、今度は!」 「何にもしてねえよ。人聞きのわりぃ言い方しやがって」

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