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第15章の29
「いやあ、それならやっぱりスタジオに戻ります。
ちょっと作業遅れてるんで…」
と言い、
「でも、鈴木さんの慰労はよろしくお願いします。」
と、スタジオについていこうとする鈴木を無理やり押しとどめると、
麻也はみんなを振り切るように、自分だけ社長室を出ていってしまった。
…当然追っていくだろうなあ…のみんなの視線を、諒は痛いほど感じたが…
さっきまでの、真樹まで巻き込んでの諒の大問題が、
麻也にはあの程度の問題でしかなかったのかと思うと、
疲ればかりがどっと出てしまって…
一歩も、一言も、諒は麻也のために動く気がしなくなってしまっていた。
(やっぱ、仕事のためなら非情になりすぎる人なのかな…
それとも、子供持ったことのない人はこういうもんなのかな…)
…ふと気がつくと、真樹が何か言いたげにこちらを見ていた…
そのまなざしが、諒の記憶の糸を手繰り寄せた。
諒が離婚をして、激しく復縁を迫った時、麻也が第一に訴えたのは、
父親としての自分と大翔の幸せであったことに…
(麻也さん、やっぱり、俺にがっかりして出ていったんだ…)
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