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第15章の30
…年末の寒風のビル街を、行きつけの焼肉屋に向かってみんなで歩き始めると、
美しいストレートの黒髪が風にあおられるのも構わず、直人が、
「それにしても諒、インタビューが延期になってよかったね。北海道の吹雪に感謝だね。」
先輩バンドの帰京の飛行機が雪で遅れ、
諒のインタビューは年明け一番に延期になったのだった。
直人の言葉にも軽くうなずいただけで、みんなと歩く道すがらも、
諒の頭から麻也のことは離れなかった。
(結局レコーディングが終わっても、
あの人は出稼ぎ先の先輩とつるんでる方が楽しいみたいだったし、
俺が部屋にずっと閉じこもっても声もかけてくれないし…)
ベッドルームに誘っていいというそぶりもなかったな…
(楽しかったのなんて、麻也さんの誕生日以来ないよな…)
「ねえ、諒、店に着いたら麻也さんに電話した方がいいんじゃない? 」
今日の事件をかいつまんでしか聞いていない直人が提案してくれた。
諒が何と答えようか困っていると、
「家に帰った時、諒がまとってる焼肉の匂いで、麻也さん絶対に後悔するからさ…」
みんな大笑いし、諒も思わず、くすっと笑ってしまった。本当に直人はいいヤツだ。
社長も振り返って、
「そうだな。家内安全のために、せめてもう一回は誘った方がいいだろうな。」
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