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第15章の59
「玄関にあった靴、あれ諒のじゃないよね。」
「えっ? 何で? 」
「見たことないし、揃えてもいなかったよ。おかしいじゃん。」
しかし、諒はやっぱりまだだるいらしく、見に行こうともせず、
「ああ、もう、荷物もあったから、揃えんのもめんどくさかったかも。
あの靴は昨日も履いてたよ。撮影の後、買い取ったって言ったはずなんだけど…」
「そういえば、聞いたかも・・・」
諒はがっかりしたようだったが、すぐに何かを思い出したようで、
「そうだ、麻也さん、飯食っちゃった?
冷蔵庫の前に…紙袋…麻也さんと食べなさいってオフクロが…」
と、元気なく立ち上がろうとするのを麻也は押しとどめた。
「いいよ。俺もいただくから俺が用意するよ。諒は座ってて。」
そして、腕を掴んだまま、
「諒、姫始め、おつかれさま…」
と微笑むと麻也は 立ち上がろうとした。が…
「は? 」
と諒に不審がられてしまった。
「…さっきの上品なチューっ!」
「ああ、はいはい、ええっ…? 」
今度は逆に、必死な諒に腕をがっしりと掴まれ、強く訴えられた。
「あれしきで? あんなので終わり? 」
「諒が疲れてんだからいいじゃん。俺、十分満足したし。」
「嘘だ! 」
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