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第15章の60
「もー、何で嘘なんだよっ! 」
麻也が半分怒って叫ぶと、意外にも諒は頬を赤らめてうつむき、
「だってえ、いつもあんなことやこんなことで…」
先は読めたので、麻也はぺしっ、と諒のアタマを叩いた。
「いいのっ! 俺はさっきので満足したのっ! 」
「…あたた…」
「それに、諒が前に言ってたじゃない。
姫って言葉は、小さいとかかわいいって意味もあるんだよ、とか。
だから…」
見れば諒は続きを待ってくれている。諒にオチを待たれるのは思えば珍しいことだ。
「うーん、だからあ…」
「さっきの小さくてかわいいチューを、麻也さんは何だとまとめたかったの? 」
その助け舟で麻也は自分の本音に気づいたので、適当なことを言ってごまかした。
「い、いやあ、諒って雑学詳しい物知りだな、って。さすがは諒だな、って。以上! 」
これまた珍しく、諒は麻也が困るようなツッコミはせず、優しい笑顔を浮かべるだけだった。
まあ疲れのせいかもしれないけれど…
(…諒の…優しさとか愛情とかがギュッと詰まったチューで嬉しかったなんて…)
…面と向かって、言えるわけがない…でも、諒の笑顔は、すべてわかったよ、と言っていたと思う。
しかし…
「…じゃあ、第二部のために腹ごしらえしますか! 」
と、諒は立ち上がった…
(…やっぱり諒は諒だな…)
と思いながらも、ちょっと期待している自分もいたが…
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