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第16章の11
「…しっかし、あの、ディスグラのギタリスト、綺麗だったなあ。」
…寒々しい内装のビルの、よく音の響く廊下だった。
「あれじゃあ、あの鈴音ちゃん、説明とか受けても、頭に入りませんね。」
「ほんとだよ。道理であの、絶世の美形ボーカルに女のウワサもないわけだ。」
「でも、あの麻也って人は昔から女関係は派手で、裏では浮気してるみたいですよ…」
「えっ? 何それ? 」
「えっ? やっぱり知らないんだ。」
…男たちの好奇に満ちた声になすすべもなく、さらには知っておいた方がマシかとも思って、
麻也はただ静かに歩き続け、聞き続けるしかなかった。
「女優の関村さんのマンション、彼女が自宅以外にこっそり持ってるマンションがあるんですけど、
そこの部屋で、あの麻也さん、鈴音ちゃんと…」
「えーっ? ごめん、声デカかった。ホントに? って、えーっ? 」
「ハードスケジュールのごほうびに、憧れの王子様を用意したんだって。」
しかし、その次の言葉に、麻也は打ちのめされた。
「坂口社長が…」
(…やめてくれ…アイツとは俺、関係ないのに…)
さらには次の言葉にがっかりした。
「…ヘンな男と体験しちゃう前に、格上のイイ男を経験させとけ、って指示したんだって。」
「えーっ? 何それ…いいの、それ…? 」
…もう、諒を呼んで、二人でこの連中をシメてしまいたくなった。
「でも、あの<19歳で略奪婚>の関村さんが仲介だから、
鈴音ちゃんは<麻也さんのお嫁さんになりたい>とか言い出して逆効果らしくって…」
「お嫁さん、とは可愛いけど…なんだかなあ…」
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